「この子に何かご用ですか?」

先に口を開いたのは青年だった、そう尋ねる彼の腕の中で少女はしっかりと守られている。

「失礼。…知り合いにその子が似ていたもので。」

男の態度に貴未は不信感を持たれていると気付き慌てて気を引き締めた。

よく考えたら似ているのは雰囲気だけで目も髪の色も全然違う。

切り替えていかなければ、ここからは戦いの始まりだ。

一呼吸置くと、そこからは一歩も踏み込まず堂々と用件を告げた。

「私は貴未と申します。マチェリラ・ラウドベースさんにお会いしたいのですが…いらっしゃいますか?」

いつもと違う貴未の雰囲気に思わず日向は見惚れてしまった。

声色も少し低く太くなり、胸を張った堂々たる姿は普段の彼にはない強さと逞しさを感じる。

貴未の目はまっすぐに男を捉えその様子を注意深く観察した。

彼の反応はあった、しかしその表情は複雑で僅かながら傍らにいる少女を守る手に力が入ったようだ。

「マチェリラは…ここにはおりません。」

低く重い声が風に乗る。

彼も貴未同様に一呼吸を置くと顎を引いて確かな言葉で告げた。