いつもより強い風は葉を花を二人の足元へと吹き込むように運んでくる。伏し目がちのカルサをなだめるように強く、そして優しく風は吹き続けた。

腰元の剣にはリュナが編んだ飾りが結び付けられている。

この風が今のカルサに寄り添うように動いてくれたのだろうか、自分の思い込みとはいえその感情に耐え切れずに手で目を覆う。

それが余計にカルサ自身の記憶を鮮やかにしてしまったのは皮肉な話だ。

あの強い感情は燃えかすであってもしっかりとこの胸に残っている。

自分の胸を剣で貫いたあの時、玲蘭華が信じられなくて嫌悪感むき出しで吐いた言葉があった。

「貴方の血が流れるこの身体などいらない。」

「え?」

「俺が剣で胸を刺す前に言った言葉だ。」

後悔はしていない、今でもその気持ちに変わりはないと、そう伝えるようにカルサの目はまっすぐ沙更陣と向き合っている。

「この身体であるウレイには迷惑をかけてしまったが…あの時の自分がしたことについて何一つ後悔などない。この国など滅びてしまえばいいと思ったんだ。」

沙更陣は言葉で反応することが出来ず玲蘭華とカルサ、二人の気持ちを考えるだけで表情を曇らせてしまった。

そんな大胆な言葉を堂々と言えるくらいにカルサの心は怒りや憎しみで染まりきっていたのだろう。立場を考えるとカルサからそんな言葉が出るなんて考えられなかった。

立場以前にカルサの人柄を思っても信じられない発言だ。

きっと拳が当てられたあの胸の場所を剣で貫いたのだろう。

あの時のまだ成人の儀式さえも済ませていない幼かったカルサが、誇りにしていた立場を全て無視して動かした感情が自身の胸を貫くという結果だ。

残念だが沙更陣にも覚えのある感情なだけにその思いは辛い。