ゆっくりと立ち上がれば、日が当たらないバルコニーのギリギリの所まで歩いていった。

一面に広がる庭の景色はやはり見事なものだと目を細める。

「この国も緑豊かなままで、ただ人がいないことが昔と違うところだ。」

空を見上げると鳥たちが優雅に大空を飛んでいて、それはカルサの位置からも確認できた。

「あの鳥は国の見回り番だけど、他にも玲蘭華は亜空間に見張り用の遣いを送っていた。ずっとヴィアルアイたちを見張っていたんだ。」

沙更陣の言葉の意味がよく分からずカルサは目を細めてその意味を探る。

遠回りな言い方はこの先の何かを予感させ、それを当てるように沙更陣は振り返りカルサと視線を合わせた。

「あの太古の事件で生き残った神官は僅か。それ以外の民も玲蘭華によって未来もしくは別次元に飛ばされた。ここに残ったのは僕とジンロ、玲蘭華によれば僕たちは長い間眠っていたらしい。」

カルサは表情だけで驚きと疑問を訴え、それを受けたように沙更陣は続ける。

あの事件の後、玲蘭華は沢山の人の記憶を操り眠らせて未来へと送った。しかし力の強い神官たちは彼女の力が微妙に適わず思うように操作できなかったという。

ある人は反作用で息絶え、またある人は一部の記憶を消されて未来へ飛ばされた。

「唯一残った僕たちが眠っている間、玲蘭華はこの広い国で一人過去と生きてきたんだよ。あの時なかった緑が生い茂って深い森になるくらいの時間をね。」

そう言って沙更陣は見事に咲き誇る花や真っすぐに力強く伸びる木々を見つめた。

それは言われて初めて気付いた事だ。以前オフカルスに来た時ラファルと再会したあの場所の樹は前からあそこにあったのだろうか。

カルサは記憶の糸を手繰り寄せて考えてみる。

あの辺りは建物があった気がした、いや兵士たちの訓練場だっただろうか。どちらにせよこの宮殿の敷地内にはこんなに木々が生い茂っていたような記憶は無い。

いま御劔たちの部屋として当てられているあの建物はかつて宮殿に仕える者たちの宿舎だったのではないかと呼び起こされる記憶があった。