そんな顔がどういうものか鏡で見た訳ではないが想像はつく。きっとろくでもない表情だろう。

「前回は…子供じみた感情が出ていた。それは沙更陣だけに対してのものじゃない…すまなかった。でも今は自分ではどうしようもない位に緊張している。」

思いがけない言葉を聞いて沙更陣は目を見開いた。

よくよく見ればカルサの拳は強く握られたまま固まっている。彼が言うようにどうしようもない程に緊張しているのだということが伝わってきた。

「世間話や昔話はいらない。こっちはもうそんな余裕は無いんだ。」

「焦らしているつもりは無いんだけどね。じゃあ先に僕の記憶でも…。」

「止めてくれ。」

強い口調でカルサは沙更陣の言葉を遮り差し出された手を拒んだ。

宙で行き場を失くしてしまった沙更陣の手は自らの記憶をカルサに与えようとする途中の物であり、それに気が付いたカルサはすぐさま断ったのだ。

「沙更陣の記憶を見るつもりは無い。…もう見たくもない映像を取り込むのは御免だ。悪いが…沙更陣の口から聞かせてくれ。」

最初は面食らったように瞬きを重ねた沙更陣だが、カルサの意思を聞きゆっくりと頷いて手を下ろした。

その気持ちには覚えがある。

それならば、その気持ちを尊重しようと素直にそう思えたのだ。

「ヴィアルアイと…ロワーヌが来たよ。」

沙更陣の言葉にカルサの目が大きく開いた。

「いつ?」

「君たちの国が襲われる…少し前かな。」

「襲われる前?」

「君とリュナが封印されてしまった…あの襲撃だ。」