「ま、兄弟喧嘩の一つや二つ。珍しくもなんともないか。」

頭の後ろで手を組み気を抜くようにして貴未も思いを吐き出した。

しかしその言葉に険しい顔をした千羅はその拳により力を込める。どうしても抜け出せない呪縛に苦しんでいるのだ。

「血の絆が一番恐ろしいんだ。」

「人によるぞ?」

「分かっていても警戒するだろう?…警戒するんだ。」

「じゃあ、もしもの時はどうすんの?」

「聞くな!」

ささやく程度の小さな声だったが千羅の悲痛の叫びは貴未の胸に鋭く突き刺さった。

そんなことは分かっていると胸ぐらを掴まれたような気分だ。

しかし貴未は冷静な目で彼を見つめその心の内を探った。

「皇子はもしもの時を考えて少しでも時間を延ばそうとしているんだ、きっと。」

大丈夫だと思っていても人の心はいつどう動くか分からない、だから怖いのだ。

「まあ…身近で体験しているからな。あまり軽はずみなことは言えないか、ごめんな。」

「…いや。」

庭にいる日向は腕を伸ばしたり跳ねたりとはしゃぐ子供の様に元気な様子を見せている。

「大丈夫だと信じていても…繰り返すのが怖いだけだ。俺たちは。」

視線の先に何かを見付けたのだろう、日向は指を差すとその方向へ走り出した。

祷と共に千羅と貴未の視界から消えていく。

記憶の欠片を集める様に宮殿内を回る日向に不安を抱いて仕方がなかった。