今の言葉、千羅の様子からしてオフカルスに着いた時に聞かされたことなのだろう。

どんな思いで自分の傍に付いていてくれたかと思うと貴未は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「じゃあ、太古の事を知ってここにいるのって…。」

「沙更陣様だけだ。」

その落ち着いた声に千羅の胸中思う。

一人だが太古の事を知る人物がいる、その事がほのかに安堵を生んだがそれと同時に疑問符が浮かんで貴未は眉を寄せた。

聞き覚えのある名前だ、しかも重要な話の中でその名前を聞いたような気がする。

「なあ、その人ってさ。」

そう口にした瞬間、目に入った景色に言葉を止めてしまった。

眼下にある庭の片隅に祷を連れた日向の姿が視界に入ってきたのだ。

同じ様にそれに気付いた千羅と共に思わず見入ってしまう。足元の草花に触れたり美しく広がる花壇を眺めたり、日向の頭しか見えないが何度も祷の方を向いていることから二人で会話を弾ませているのだろう。

上から見られていることに気付いていない日向は楽しそうに探検をしているようだ。

「…日向は記憶が戻ったらどうすんのかな。」

何気なく呟いた貴未の言葉に千羅は何も返せなかった。

泣くのだろうか、責めるのだろうか、それとも労うのだろうか、どれだけ考えてもそれは日向にしか分からない。

もしカルサを責めるようなことになった場合、いやそれ以外でも自分たちはどうすることも出来ないのだと知っているからだ。

「皇子に任せるしかない。」

少しの間をおいて千羅の掠れた声が聞こえてきた。

聞き流すことも出来たろうに、複雑な胸中で返してくれた彼の思いを受けて貴未は苦笑いをする。