少しずつ増していく水音の大きさに意識を奪われそうだ。視界も揺らぎ始めて焦りが生まれる。

足が固まって動けない。

次第に二人の距離が広がっていくように感じ、動いたかどうかは分からないが縋り付くように右手を伸ばした。

水音が増すにつれて彼女も意識も遠退いていく。

「ちょっ…待って…っ！」

やっと出せた小さな声は僅かに彼女を反応させた。

彼女はその魅力的な唇を動かして何か言葉を放つ。もう水音以外は何も聞こえない、しかし何故か見えた口の動きで何を話したかは分かった。

遠ざかっていく景色を掴もうと伸ばしていた手も力尽き意識も視界も真っ白になっていく。

彼女の口は、こう動いた。

「またおいで、貴未。」

そして。



まるでスイッチが切り替わるように目が覚めた。

「…っは！」

思考が戻る前に映った景色はさっきまでと異なるものだった。

視界には色鮮やかでハッキリとした景色が映っている。

無意識の内に瞬き繰り返し、ようやく何かから解放されるようにゆっくりと息を吐き出した。それを機に心臓も動き出したような感覚になる。

目から耳から肌から入る情報で少しずつ思考を働かせ自分の意識を取り戻していった。

身体を起こして辺りを見回せば自然といま自分が置かれている状況を思い出して安堵の息を吐く。

「そっか…。」

そう呟いて頭を掻くとベッドから下りて窓を開けた。その瞬間に心地よい空気が部屋の中に流れてくる。