そうだった。せっかく進んだ足はいつも水音を認識した瞬間に止められ意識も失ってしまう。

いつもそうだった。でも今日は違うらしい。

人影がはっきり見えたのは今日が初めてだった。

噴水の水音をこんなに長く聞いたのも噴水の形を認識できたのも全て今日が初めての出来事だ。

知りたい気持ちが水音に打ち勝っていく、それでも足はゆっくりにしか進まないのがもどかしいところだった。

人影はおそらく“彼女”と呼ぶのが正解だろう。

胸の辺りまで伸びた真っすぐな髪は光が強すぎて色までは分からない。ゆったりとした長い布を纏っている、おそらく外陰なのだろうと頭の端で理解をした。

彼女は一体誰なんだ。

そんな事を思いながら目を細めれば、まるで見透かすようなタイミングでこちらを向いたのだ。

それには息も心臓も足をも止まり、それ以上進めなくなる。

ただ立ちつくして互いに見つめあった。

長い前髪は真ん中から左右に分けた髪型、そこまでは雰囲気で分かるものの顔立ちまでは分かりにくい。

そしてなんとなくだが微笑んでいるのは感覚で分かった。

「やっぱり、貴方が来たのね。」

高いけど落ち着いた声、誰かに似ているようで似ていない声は“彼女”である事を確定させた。

初めて聞く声にどこか懐かしさを覚えながらも心が震える。

「ずっと待っていたのよ?」

まるでその声は魔法のようだ。

身体が縛られたように身動きがとれない、自分を待っていたという事の意味を聞きたいのに思うだけで声が出なかった。

彼女は笑っている。