「恐えなあ。」

抑えきれない不安を少しでも和らげようと貴未は呟いて長い息を吐く。

どこか自分の姿を重ねたのだろうか、苦々しくも笑う貴未に日向は強さと親しみを感じた。

「会えるといいね。」

日向は微笑む、その笑顔に貴未は少し落ち着きを取り戻せたようだ。

そうだな、と笑った後の彼はしっかりと前を見据えている。

「もうすぐだ。」

そう言った貴未の視線の先はこの町並みの終点、丘の上にある白い壁で囲まれた教会だった。

昔からあるような年季の入った造りが歴史を感じさせる。

「ここはそんなに変化ないかな。」

少しでも自分に言い聞かせたいのだろう、強がった言葉に貴未は思わずため息をついてしまった。

遠い記憶を掘り起こしてきても、ぼんやりとしたものしか出てこないのだ。

教会の横には修道院らしき建物が見えるが貴未には覚えがない。

あったような無かったような、どちらにせよ白い石垣に囲われた方へ訪ねた方が良さそうだ。

見た限り教会への扉は閉ざされており、おそらく修道院側からしか入れないようになっている。