「私は国の民全ての命を背負っています。一人たりとも落とす訳にはいかない。」

命をかけている、サルスは全身でそれを訴えていた。

「力を貸して下さい。お願いします。」

強い眼差しで射るようだ。サルスの熱い思いがハワードの全身に伝わってくるのが分かる。

「老体を巻き込みますか。」

サルスの想いを受けてやっと出せた言葉だった。厳しくも寂しげな表情、それでも引き下がる訳にはいかない。

「はい。」

短く、だけど確実に気持ちを伝える。逸らさない目に感じることが出せる答えなど一つしか用意されていないということだ。ハワードは自分の右手に視線を落とし思いを馳せた。

もしもの時はこの手でサルスを止めなければいけない。それは時として命を奪う事になるだろう。サルスはそれを望んでいる。

サルスがいま一番恐れていることは自分を失うこと、そしてそれによって誰かが犠牲になることだった。

「昔と何も変わりませんね、私たちは。」

自分の手の中には常に国の民がいる、一人でも多くの民を守れるように強く、もっと強くならなければいけない。王位を継いでからカルサとサルスが誓った事、その想いは今でも変わらない。

そんな二人を自分の子供のように思い、見守ってきたハワードとナル。二人の気持ちも変わっていなかった。

「あの子たちを宜しくね。」

ナルの言葉が胸に響く。

命をかけて国の未来を開こうとしたナル、その遺志を継げるのは自分しかいない。今までも、これからも何も変わりはしない。ただ自分が立つ、ナルを傍に感じることで勢いが増すだけだ。

「失礼ながらも…私はお二人の事を自分の子供のように思っていたのですよ。」

二人というのは自分とカルサの事だとサルスには分かっていた。幾度の対立はあっても、ハワードはいつも傍にいてくれたことは誰よりも知っている。

「知っています。私たちはそれが嬉しかった。」

感謝の気持ちをこめて答えた言葉にはカルサの思いも含まれていた。サルスの顔が少しずつに穏やかになっていくのが見える。それはきっとハワードの雰囲気から次に出る言葉が何か分かったからだろう。

サルスが求める言葉、彼ならきっと言ってくれる。