「カルサが俺たちを守るなら、俺はカルサを守る。」

深い理由は分からないにしろカルサの背負ったものと覚悟を知ったサルスには迷いなんてなかった。むしろこれからの導にすらなる出来事になったのだ。

「ナル、俺に魔法をかけてくれ。」

瞼を閉じたことによってナルの瞳から涙がこぼれる。次に顔を上げた時にはナルの涙も止まっていた。

「承知しました。サルスパペルト殿下。」

この時かけた術が後々にサルスの今の姿を作り上げ、先の襲撃で解かれることになる。サルスが準備していたように彼はカルサが戻るまでの間、カルサとして過ごし自らの存在を消した。

そしてサルスの知らない間に重ねられた術によって彼は再び自分の姿を取り戻したのだ。

今思えば勘の鋭い二人が部屋の中にいたサルスの存在に気が付かなかったのはそれほど追い詰められた状況だったということになる。あの時から既に二人は見えない敵と戦い続けていたのだ。

あれから優に十年は超えた。

「私はいつか来るこの時をずっと覚悟していました。その時は大きなものを背負って旅立つカルサを笑顔で見送ってやろうと…帰る場所はあるって伝えようと思っていたんです。」

国王を補佐する立場において雑用もこなし、王としての必要なものをこぼさないように全て把握するように心がけてきた。それがいつか来る日のために必要なことだと思っていたからだ。

カルサの居場所を守る以上、カルサより優れても劣ってもいけない。カルサが何を見てどんな判断をするのかも注意深く見てきた。

すべてはいつか来るこの日のために準備してきたことだったのに。

「でも、それが出来なかった。…今の私では力になるどころか不安要素でしかない。」

「不安要素などと…っ!貴方の働きは皆が評価し称えられる事実だ、それを否定することは例えご自身であっても許されることではない!」

ハワードの気持ちに感情が昂り思わずサルスは俯いた。心を落ち着けるための時間を置き、やがて深呼吸が聞こえる。

「受けてもらえますか?」

顔を上げる、強い意志を持った眼差しは覚悟を物語っていた。それはまるで戦場に出向く兵士に似た顔つきでハワードは目を細める。