「感謝します。」

その言葉を残しカルサはそのまま扉へ向かって部屋から出ていった。

すがるような思いでカルサの背中を見つめているナルは動けないようだ。やがて小さなため息とともに視線を落とすと初めて部屋の中の異変に気が付いた。

「…サルス!?」

部屋の奥に佇むサルスの存在にようやく気が付いたのだ。

「貴方…聞いていたの?」

カルサがいなくなったことでようやくサルスの思考が目まぐるしく巡り始める。聞いたばかりの情報はあやふやになりがちだが感覚的に悟っている部分もあった。

「サルス。」

やがて立ち上がったナルがサルスの方へと近付いてくる。しかしサルスは口を閉ざしたまま自分の中で懸命に整理をつけようとしていた。

ふと動かした視線の先に大きな姿見が映る。

「サルス…?」

視線の先が自分から動いたことに不思議に思ったナルが彼の名を呼ぶことで様子を探ろうとした。彼の視線の先を追うと姿見に映った自分とサルスがいる。

「…ナル。俺の姿を変えられる?」

「えっ…?」

鏡に映っているのは紛れもない自分自身、しかしサルスにはそれがカルサのように見えて目を凝らした。それと同時に思ったのだ。

ああ、これだと。

「俺を別人のように姿を変えてほしいんだ。そうすればカルサの代わりになれる。」

今のサルスは慣れ親しんだ人以外だとカルサに間違われるくらいによく似ていた。従兄弟同士とはいえ双子のように似ているとよく言われたものだ。

唯一決定的に違うものが目の色で、慎重さもあるが周りはそれを基準に見分けていたほどだった。

「カルサは戦う為に出ていくんだろ?だったら俺は戻ってくる場所を守らないと。そうだろ?ナル。」

そしてようやくナルに向けられたサルスの目は痛いくらいに純粋でナルは涙を浮かばせる。たった今、見聞きした情報でサルスの中では大きな覚悟と決心が出来たのだ。