淡々と話しているように聞こえてもカルサの表情や仕草は焦りや憤りのようなものを感じさせるほど、余裕がないように見える。そしてそれを表すかのように握りしめた拳で自らの足を叩いた。

「カルサ!」

「そのうち俺の許に力が集まり始める筈だ。その時の為に力を集めて俺はあの人を求めて戦いの準備をしなくちゃいけない。この国に影響が出ないうちに何とかしないと…この手にある物が守れなくなる。」

カルサは両手を胸の前で救うように合わせると震える声を出した。それは王位を継ぐと決まった時にサルスやハーブと共にハワードから教えられたものだ。

「俺のせいでこの国に何かあったら…姉上やサルスに何かあったら…!」

「カルサ。」

「この国がこんな状態では留守にすることも出来ない。一刻も早く基盤を作って…。」

震える声がきっかけだったのだろう。カルサの目には涙が浮かび、堪えることが出来ずに次々と大粒の涙をこぼし始めた。

まだ幼い、まだまだ親の手を取りたい歳だろうということをその姿を見てようやく思い出す。

さっきまでの威厳が儚くも消え去り弱々しい子供に戻ってしまっていた。

「俺はいずれ国を出る。王位はサルスに渡すつもりだ。」

服の袖で勢いよく涙をこすると、まだ震える声を懸命に張りながらカルサは告げる。何か言いたげに小さく首を横に振るナルはそれでもカルサの目から逸らせなかった。

「その時まで俺に力を貸してほしい。」

カルサは真っ赤な顔で口元に力を入れ、頭をゆっくりと下げる。

「カルサ、やめて!」

「お願いします。」

「…カルサっ!」

頭を下げたままのカルサにナルは抱きつき力を込めて引き寄せた。彼女の目にもまた涙が浮かび手元はかすかに震えている。

「貴方を一人にはしないわ。絶対に!」

ナルのぬくもりを感じながらカルサは目を閉じた。何も言わずに時の流れを感じているとカルサの中で思いが固まったのだろう、ゆっくりと身体を離してもう一度ナルと向かい合う。