「ナル様は死に、陛下は国を去ろうとしている。無知な者だけが残るこの国で何が出来ましょうか!?守りきれる自信がお有りだと!?」

「大臣!」

感情の昂りが声の大きさに比例していく。大臣の勢いを止め、自らも落ち着きを取り戻そうとカルサは深呼吸をしたがそれはため息になった。

ついさっきまで同じような言い争いをサルスとしていたではないか。同じ事をまた繰り返すのは何故か、思いが伝わらないのは何故かと苛立ちさえも覚える。

全てを曝け出すことが良い事などと少しも思わない、それは今まで自分が持ってきた信念だった。これは相手の為でもあり、自分の為でもあるのだ。

誰にどれだけ言われようとその思いは揺らがない。知ることの辛さや重さ、それをカルサは身をもって知り苦しみ続けてきたのだから。

「カルサ、口を挟むけどいいよな?」

大臣に命を下そうと口を開いた瞬間に貴未の声が滑り込んできた。間の悪さに苛立ちを覚えるがここで強く断る理由もない。

「何だ。」

しかし治まりのつかない気持ちの乱れで枯れた声しか出せなかった。

「もうカルサ一人の力じゃどうにも出来ないって…本当は分かってるだろ?」

カルサは何も答えなかった。黙ったまま、まるで綺麗な答えを探すかのように、慎重に言葉を選んでいるように見える。

「誤魔化せないんだよ。」

貴未の言葉が胸に響き、この時初めてカルサは貴未と目を合わせた。寂しげな表情、もうどうしようもないのだと全身で訴えられてもカルサの思いは変わらない。

「これは御劔の戦いだ。生きるか死ぬかの戦いなんだ。特殊な力を持たない者が介入するのは自殺行為にすぎない。」

たとえ特殊な能力を持っていたとしても生き抜けるとは限らない、そんな言葉を胸の内に押し込めて拳を強く握った。

「ナルはそれに巻き込まれた。」