「理由はない。そう言ったはずだが?」

「理由はないのではなくて、言えないのでは?」

いつものように冷静に堂々とした態度で対応する。国王としての威厳がそこにはあったが大臣も引き下がらない。睨み合ったまま互いに様子を伺っているようだ。

「何が言いたい?」

「殿下が陛下の代役を務めるようになってから、或いはそれ以前から確執があるように見えます。」

大臣は一度口を止め、カルサの反応が無いことを確認すると話を続けた。

「陛下は壁を高くし、殿下もまた壁を作った。本来なら分かりあい支え合わなければならない二人が、今ではバラバラです。」

「それで?」

「殿下が何故いま会議を開くのか理解されてますか?そして、本当に今後このような事が無いと約束出来るのですか?」

ゆっくりと瞬きをするとカルサは再び大臣と向きあった。

「サルスとの話し合いは幾度となく行っている。会議についても今から確認し対策は十分に行う。」

それが答えだと強い口調で、態度で示した。貴未は一歩引いた位置で気配を殺しながら二人の行く末を見守っている。多少の居辛さもどうしようもない位に空気は殺伐としていた。

息を飲むのも躊躇う程に張りつめている状況が危ぶまれる。

「陛下は十分に殿下を理解されていると。」

カルサの答えを受けた上で思いを噛み殺しながら苦々しい表情で大臣は問いかけた。カルサは眉間の皺を深める事で反応する。大臣は昂る感情を堪えるようにきつく目を閉じて歯を食いしばった。

「自分しか見えていないのか…っ!」

「何を思おうが話合いは…。」

「何故、殿下が一人で泣かねばならない状況が生まれるのだ!」

カルサの言葉を遮って出された囁くような叫びは、どんな大声よりも耳の奥まで響く。しかし耳を疑いたくなるような言葉にカルサは目を細めた。