「ナルとは暫くの別れだな、大臣。」

カルサの言葉に大臣は少し驚かされたようだ。暫くの別れ、近い内に再び会えるだろうと思っていた大臣の心を見透かした上での台詞だった。お前にはまだまだ助けてもらうという思いもあったのだろう。

「そうですね。」

短く答えるとハワードはまた微笑んだ。

そしてゆっくりと目を閉じて机の上に置いたばかりの本に触れる、次に目を開けた時にはいつもの老大臣の顔つきに戻っていた。

愛しい人を懐かしむ時間はもう終わりらしい。

「陛下、先程連絡が入り殿下が緊急会議を行うと聞きましたが。」

「サルスが?」

まだまだ助けてもらうというカルサの思いに答える為に今を貫くと踏み出した第一歩だったが、カルサの予想外の反応に大臣は目を細めた。

「ご存じ有りませんか…いけませんね。お二人の間で意志疎通がなされていないのは問題です。」

睨みを利かせたその言葉にカルサは何も言い返せない。しかし俯く事もなく大臣と向きあったまま動かない態度はまるで睨んでいるようにも見えた。

子供の反抗の様に感じるが実際はそうではない。ゆっくりと威圧するように大臣は口を開いて尋ねる。

「理由をお聞かせ願えますか。」

「理由はない。内容も予想が付いている。以後このような事が無いよう、十分に気を付ける。」

カルサは堂々とした態度で答え退室を伺わせるような雰囲気を出す。カルサとしては一刻も早くその内容をサルスに確認したいのだ。普段なら何も言わずにあとはカルサの流れに合わせるところだが、今日の大臣はそういう訳にはいかなかった。

「陛下、無礼を承知で申し上げます。」

大臣はその一言でカルサの動きを止める。

「言えない理由というのは、ナル様の死と何か関係があるのですか?」

部屋の中の雰囲気が一気に緊迫し身体が緊張していくのが分かった。