ふと視線を外へ向けた窓の向こう、小さな中庭を挾んだ向こう側には東の塔と呼ばれた建物が見える。先日の襲撃の時に爆破され、分厚い壁を突き破った大きな穴が痛々しい傷跡として残っていた。

あそこは限られたものしか知らない隠された場所。結界石が置かれていた場所だった。

その結界石も破壊され今はもう瓦礫の中に埋もれている。

そこまで考えるとカルサの顔が厳しくなった。

あそこにはいくつか血痕が残されていたと報告が入っている、あの場で誰かが怪我をしたことは明白だった。誰かとはおそらく、そう考えると更に眉間の皺が深くなる。

それでもカルサは足を止めずにサルスを目指して進み続けた。

民の部屋が近付きカルサの存在に気付いた兵士がカルサへ駆け寄ってくる。

「陛下!」

「エプレットか。」

声と雰囲気で側近のエプレットであると分かった。少し離れた場所で止まって一礼をし、脇に避けてカルサを待つ。カルサは足を止める事無くそのままエプレットに問いかけた。

「サルスを探している、いるか?」

カルサが通りすぎた後、エプレットは答えながら斜め後ろに付いて歩き始める。

「いえ、殿下は武器庫に向かわれました。」

「武器庫に?」

想定外の答えに反応しカルサは顔だけ振り向いた。彼の視界に自分が入るようにエプレットはほぼ横に近い斜め右後ろに移動する。

「はい。そう仰っていたと聞きました。」

「そうか。」

武器庫に一体何の用があるのだろうか、考えるだけで表情が厳しくなる。二人はいつのまにか民の部屋への扉を潜るところまで来ていた。さすがに人の気配があるこの辺りは活気がある。

女官も兵士も一時期の慌しさこそはないが忙しそうに働いていた。廊下は掃除道具や工具を持った職人で賑わっている。部屋の中は怪我人と帰り支度をする者がいた。どうやらここの怪我人は軽傷患者だけらしい。