「カルサトルナス、皇子としての力は持ったまま?」

二人の会話に反応しながらも周りは黙って見守っていた。カルサが肯定の意味をこめて首を縦に振った瞬間もそれは変わらない。ここを期に場の雰囲気が一変することも感じていながら黙って見ていた。そしてきっかけとなる圭の言葉が出される。

「さっき言った事も本気の言葉?だとしたら、それは違うわ。貴方の慢りよ。」

決して声を張った訳でもなく、投げ付けている訳でもないのにその言葉は強くカルサを惹きつけた。頭を思いきり殴られたかのような、強い衝撃も彼には感じている。

「カルサトルナス、貴方に憐れと嘆かれるほど私たちは落ちぶれてはいない。あの子たちを止められなかったのは私たちも同じ、何故あの時まだ子供だった貴方がそこまで背負う必要があるの?」

「今の世界のこれからを全て俺が担っている。過去を清算し終わらせなければ何も生まれない。」

「その過去には私たちも含まれている筈よ。」

穏やかな口調ながらも強く主張をした。お互いの視線がぶつかり合ったまま何も続かず、カルサには言葉もないように見える。言葉に詰まっていると言った方が正しいのかもしれない。

それでもカルサの言葉を誰もが待っていた。カルサにもそれは伝わっていた。

カルサの中で様々な思いが駆け巡り、今まで抱えてきたものや、両手からこぼれ落ちてしまったもの、目の前にあるものをまだ掴まなければいけない気持ちが入り混じって混乱しそうになった。

「それでも、お前はもうシャーレスタンじゃない。」

あまりに穏やかで儚げな笑顔に圭は見惚れてしまいそうになる。この弱々しくも必死に胸を張って大きく見せようとする青年に、これ以上何も言うなとあやされているようにも感じられた。

「貴方も今はカルサトルナスではないでしょう?」

圭の言葉にカルサの目が大きく開く。同じような反応をしたのはカルサだけじゃない。圭は微笑んで右手をカルサに向けて差し出した。

「取引しましょ。」

「取引?」

「そう取引。私は自分の為にヴィアルの所へ行きたい。でもそれには貴方の力が必要。貴方に力を貸すことを条件に同行させてくれる?」

それはどこかで聞いた話だった。カルサから見て圭の向こう側、貴未と目が合うと彼は微笑み返した。そして自分の弱さと幼さがあまりにも小さくさせていた事に気付かされたのだ。

こうやっていつも手を差し伸べられながらここまで来ていたのか。

取引、それは立場は対等であるという圭からのメッセージでもある。