「もう逃げるのも振り回されるのもイヤ。ケリをつけたいの。」

睨むようにカルサを見つめる、でもそれは長年苦しみ続けた彼女の怒りと悲しみを表していた。カルサは黙って頷く。その感情には嫌という程覚えがあるのだ。

「カルサ、とりあえず圭を送ってくるよ。」

一旦話の区切りを付けるように貴未が声を出した。意図したように皆の気持ちが切り替わり、視線の先は圭に集中する。

「そうだな、頼む。」

カルサは答えると圭に近付くため足を進めた。カルサの言葉を受けて貴未は圭の横に行き手を差し出す。すると圭は首を横に振り微笑んで拒む姿勢を示す手を控えめに突き出した。

貴未の手が下がる。

「ここに残ります。」

今度はカルサの方を向いてまた同じように微笑んだ。そしてもう一度貴未へ視線を戻す。カルサも貴未も、彼女の思いが分からずただ黙って圭の動きを見ていた。

「貴未さんと、マチェリラ。二人が迎えにきた時から決めていました。」

名前を呼ぶ時は本人と目が合うように、話かけるようにゆっくりと言葉を綴るのは彼女の昔からの癖。上に立つ者が諭すような姿勢は手本にされる程評価が高い、カルサも何度となく見習えと言われたことを頭の片隅で思い出す。

「ここで私と皆さんの道が繋がったのも運命です。運命ならば導かれるままに。」

言葉の一つ一つを大切に丁寧に口にしていく。その話し方は圭だろうか、シャーレスタンはどちらかといえば流れるように滑らかに話していたと、ぼんやり記憶を呼び起こす者もいた。それでも彼女の話し方は耳に心地よく届く不思議がある。

「その運命は誰かの都合がいいように作られたものでもか?」

責任を感じているのだろう、カルサはいつもこの話になると苦しそうな表情をする。それに気付いた圭は思った事をそのまま口にした。

「責任を感じているの?」

カルサは目を伏せ、感じない筈がないと小さく答えた。

「でもカルサトルナスは何も悪くない筈。何故そう思うの?」

「シャーレスタンまで巻き込んでしまった。」

カルサの目が圭を捕える。圭はすぐに答えずにカルサの言葉を受けたまま黙っていた。目と目だけで会話をしているようにも、探り合っているようにも見える。