ナルから切り出された別れの言葉。しわの深い手でスカートを掴み、少し屈むようにしてみせた。少し低めの穏やかな声、灰色のきれいな瞳、くるくるとした白色の短い髪の毛。今では全てが愛しく感じる。

本当なら抱きしめて最後の別れを惜しみたかった。しかしナルは占者として最期を迎えようとしている。カルサは王として彼女の思いに答えなくてはいけないのだ。

「顔を上げろ、ナル。」

王の言葉にナルは従った。

「これまでよく仕えてくれた、礼を言う。」

時間があるならば伝えたいことは沢山あったのだ。共に分かち合いたい思い出は山ほどある。それら全てを抑えて出した言葉がそれだった。王として伝えられる感謝の気持ちはそれだったのだ。

彼女を包む光が強くなりナルの表情も分かり辛くなってきた。しかしきっと彼女は笑っている、そんな気がする。

「陛下、失礼致します。」

彼女はそう言い残し、光と共に空へと上っていった。全員がそれを追って顔を上げ静かに見送る。まるで景色に溶け込むように光は瞬きの間に消えてしまった。

なんとあっけない時間だったのだろう。

「ナル様!」

レプリカが手で顔を覆い泣き崩れた。それを追うように皆俯く。

カルサだけがいつまでもナルを見送り続け、そして彼だけがナルの光が消えた後一瞬現れた人の姿に気が付いた。

それは懐かしい人物、カルサは心の中で放った言葉があった。

ナルを頼む。

その言葉を受け取ったかどうかは定かではないが、その後その人物は姿を消した。

「冥界の使者ですね。」

千羅が小さく呟く、彼も気が付いたのかと思いながらもカルサは肯定の言葉を呟いた。

「冥界人が迎えにくる程、高貴な人だった。そういう事ね。」

圭の声にやっと視線を地上に戻し見上げたままの態勢を直す。

「良かったわね、そういう人に巡り会えて。」

心強かったでしょう、さらに付け足した圭の言葉をカルサは聞き流した。そんな事はどうでもいい。大切な仲間をまた一人失った、あるのはただ1つの事実だけだった。