幼い頃から二人だった。実の兄のように触れ合い、助けあってきた。

何よりも誰よりも深く揺るぎない絆があると思っている。

ずっと一緒だった。ずっと手を取り合ってやってきた。

秘書官として誰よりも近い位置で励まし、助け、怒り、悲しみ、笑い、傍にいて理解し支えていた。

唯一の血縁者である彼の存在は、カルサにとって大きかったことは言うまでもない。お互いの気持ちや考え方は分かっているつもりだった。

つもりとはどこまで行ってもつもりに過ぎないのだと否が応にも思い知らされて歯を食いしばる。

「あいつは自覚しているのか?」

「分からないわ。」

カルサの静かな問いかけにナルは首を横に振って答えた。

言葉でも答えてくれたナルに対し、そうかと呟いて口を閉じる。寂しげな瞳が見ているのは懐かしい過去、歩んできた歴史は長いのに思い出される記憶は少ししかなかった。

ただ、どのサルスも穏やかに笑っているのは気のせいではない筈だ。

「カルサ。」

自分の意識の中に入り込んでしまった彼をナルは呼び戻した。ゆっくりと視線を向けるカルサは答える代わりに口の端で笑ってみせる。まるで他に伝えたい事があるナルに続きをどうぞと促しているようにも見えた。

ナルは視線をカルサの手元にある自分が書いた手紙に落として口を開く。

「そこにも書いたけど、裏切りの刀は私も予想しない人物だった。」

ナルの言葉に促されるようにカルサも手元を見た。裏切りの刀、その言葉自体に覚えがある。あれは確か総本山オフカルスに行く前にリュナと二人でナルの許へ挨拶に行った時に聞いた言葉だった。

あの時は特に聖とリュナに監視の目を光らせている時だったと思う。その頃も勿論サルスに目もくれていなかった。

「いつからか、どうやってか。全てが謎のままだけど、サルスは魔物になりかけている。」

その言葉にカルサは眉をひそめる。リュナに続いて身近な存在の中に潜む魔物の影、これは偶然なのだろうかと疑ってしまいそうだ。

また歯車の思いどおりなのかと拳を強く握った時だった。

「でも、救う道はあると思うの。」