「答えてはくれませんでした。横にいる男は笑うだけ、それが不気味で私には目の前にいるお方が殿下だとは思えなかったのです。」

何度も何度もサルスの名を呼び距離を近づけていく。おそらくそこに囚われ過ぎていたのだろう、少しの油断から大きな一撃を身体に受けてしまったのだ。その瞬間にサルスの表情に色が灯る。

すぐに反撃して倒したレプリカだがその傷は深かった。

「レプリカ?」

窺う様にサルスが声を発した瞬間、横にいた男は表情を歪ませて何も言わずに姿を消してしまう。それと同時にさっきまではサルスを存在に疑いもしなかった魔物たちが急に彼を敵だと認識し始めた。

大きな唸り声を上げて剛腕を振り上げる。レプリカは渾身の力を振り絞ってそれらを薙ぎ払った。

そしてそのままサルスの腕の中に倒れこんでしまったのだ。

「その時にはもう…いつもの殿下でした。私の剣を取り残りの魔物を倒してくれた、そして何が起こったのか困惑された様子で労わってくださったのです。謝罪もされました。」

「レプリカを救護室に運んだのはサルスだって聞いた。」

次に口を開いたのは貴未だった。

「サルスは仕掛ける側に関わりがあった、そういうことよ。カルサ。」

ナルの言葉に一同の視線が彼女に集まる。レプリカの話を聞く限りサルスの完全な意思ではないようにも感じられた。

「じゃあ、手紙にある通り?」

力ない声をだしたのは貴未、しかしカルサも同じ事を頭の中でナルに問い掛けていた。

ナルは視線を下げる事無く頷き、厳しい表情のまま口を開いて今度は自らの口で伝える。

「サルスは魔物に寄生されているわ。」

置いてきた足を引き寄せる誰かの靴音が響く、誰もが頭の中でナルの手紙の内容を読み返していた。