目が泳ぎ俯き加減だった顔がさらに深くなっていく、そう言えば彼女もまたサルスのことを強く気にかけているような発言をしていた。

「どういうことだ。」

カルサの声が口を開くように促す。

「…殿下が魔物の群れに囲まれているところを見ました。リュナ様を探していた時のことです。」

そこまで話すとレプリカは覚悟を決めて顔を上げカルサに向き合った。その表情は苦々しく、少しでも触れ方を間違えれば壊れてしまいそうでもある。

「最初は危ない状況なのだと思いすぐにお助けしようとしたのですが、そうでもない様子に動けなくなってしまいました。おそらく状況から察するに指示を出していたのではないかと思われます。」

「指示?」

カルサの声にレプリカは頷いた。

「殿下の傍にもう一人、人間がいました。見覚えはありません、ですが魔物ではないかと…なんとなくそう感じました。自信に満ちた態度の…髪の短い男です。殿下の肩を組まれていて仲がよさそうに見えました。」

「その男が魔物に指示をしていた。」

「はい。手を動かして何か話していました、それに殿下は頷きもせずに腕を組んだまま聞いておられたようです。動揺してしまった私はいつの間にか周りを魔物に囲まれてしまい…そのまま戦闘に入りました。」

「あの傷はサルスが?」

「いいえ。」

合間に入るカルサの言葉に返し、さらに自分の持つ情報を加えて伝えていく。レプリカはさっきまで瀕死の状態だった自分の身を振り返ると少し身震いがして自身を抱きしめた。

「多くの魔物を相手している内に彼らに見つかりました。髪の短い男は楽しそうに魔物たちを私に向かわせ、それでも殿下との体制は崩していなかったように思います。殿下の表情は…初めて見る感情の無いものでした。」

怪我を追っているとはいえそれなりに実力のあるレプリカは風魔法を駆使しながら確実に魔物の数を減らしていった。

幸いにもこれ以上無限に増えることは無かったようで、目の前で繰り広げられるレプリカの戦いぶりに傍観していた二人も感心をしたようだ。少しずつ終わりが見え、レプリカはようやくサルスに向かって声を発した。

ひたすらに彼の名前を呼んだのだ。