「ナル。」

怖さを隠して名前を呼んでみた。その表情は隠しきれない不安が溢れている。

未だ鳴り止まない鈴の音が何故かカルサを焦らせ、懐にあるナルからの手紙を取り出して手紙とナルと何往復も視線が移動した。

答えて欲しい。

この手紙の内容について、そしてもう一度言葉を交わしたい。求める気持ちは大きすぎて自然と体が前のめりになる。圭は横で静かにカルサを見ていた。今の彼はナルしか見えていない、他の者もそうだった。

改めて周りの思いを感じとると、圭は意識をナルに移し手をかざす。

「目覚めなさい、ナル・ドゥイル。」

そしてかざしてあった手を勢い良く振り落とした瞬間、それまでうるさいくらいに響いていた音は消えてナルはゆっくりと目を開けた。

そこにいた者は自然と構え、ナルの目蓋があがるにつれて緊張が増していく。途中まで開いた目は一回瞬きをして完全に目を開けた。

顔を上げて真っ先に目が合ったのはカルサ。彼の姿を確認すると優しく微笑んでいつものように彼の名を呼ぶ。

「カルサ。」

名を呼ばれてもすぐには反応出来なかった。ナルの声を聞くのは一体どれくらいぶりなのだろう、時間にしてみれば大したものではないのにひどく懐かしかった。もう当たり前に聞く事が出来ない声。

「カルサ、私を呼んだのでしょう?」

「ああ、呼んだ。」

ナルに誘導され、やっと声になった。やっと笑えた。

「ごめんな、ナル。」

カルサの言葉にナルは首を横に振った。

「可愛い子の為よ、喜んで答えるわ。貴方なら私の気持ち分かるでしょう。」

今までと変わらないナルの言葉に自然と笑みがこぼれる。穏やかな時が続くように思われた、しかしナルの目に見覚えのある手紙が入ってしまったことによって終わりを告げる。

「読んだのね。」

手元にある手紙を見た。カルサは視線を手紙に落としたままで肯定の返事をする。