「ここが日向の故郷か。」

人里に近い山の中から町を見下ろし貴未は呟いた。

のどかで独自の文化を築く集落は、場所が違えどあのとき千羅と瑛琳がカルサを思い眺めていた所でもある。

そんなことは知らない貴未は千羅と同じような言葉を呟いた。

「穏やかな景色だな。」

あの赤い屋根が連なる集落ではきっとたくさんの笑顔に出会えるだろう。

「まさかこんなに早く帰ってこれるとは思わなかったよ。」

予想外の展開に貴未の隣にいた日向は苦笑いで町を見つめた。

確かリュナの所に向かう際に今生の別れを済ませた筈だった、なのにまたこうして故郷の土を踏めるなんて。

「寄ってくか?」

貴未の言葉に日向は静かに首を振る。

「あの時別れは済ませたし、きっとみんな混乱しちゃうよ。」

少し寂しげな笑顔で町を見下ろすと目を細めて懐かしい出来事を思い出した。

楽しかった日々、笑顔で送り出してくれた人々を思って自分の存在を確かめる。

「それに…僕にはまだ役割があるから。」

その為にここにいる。