何故そんなに寂しそうな顔をするのだろう、そう思うと同時に無意識に涙が込み上げてきた。

「何故自由にしようとしない?思うように自分を動かせばいいだけだろう?お前が犠牲になることはない。」

それはカルサの願いのようで頼むからやめてくれと説得されているように感じられた。その眼差し、熱い思いは深く心に響いてくる。しかし向けられた感情は哀れみや同情に程近かった。

「犠牲になるという表現は違います。私たちは決して自分を犠牲にしたりはしません。」

優しい微笑みがカルサに向けられる。彼女の言葉は確かに千羅の気持ちも代弁していた、それはカルサが放つ言葉が自分のことだけではないと気付いたからだ。レプリカが目配せをすると思わず千羅からも笑みがこぼれる。

「家族を守る為に必死になる事は当たり前です。忠義でもなんでもない、好きだから守る。大切だから守りたい、底にあるのは本能です。」

次第に真剣になる表情、眼差しはカルサを捕えて離さなかった。しかしカルサの目を見れば分かってしまったこともある、こんな言葉では彼は納得しないのだと感じてしまったのだ。

それだけ言っても伝わらないかもしれない、そう頭の中で過った瞬間に悔しさが込み上げてきた。

「自分を犠牲にするという事は命を投げ出す事、そんなことしません。そんな悲しませるような事、絶対にしません!」

少し声を荒立ててもやはり何も響かなかったのだ。それどころか彼の眼差しはますます悲しく曇っていくようにも感じる。

責めているのだ。

自分の存在によって巻き込んでしまう人間に対して後ろめたさを常に抱えてしまっているのだ。それを悟った瞬間にさっきまでのカルサとの会話を思い出した。

彼は既に皇帝の力を継承している、つまりはその命の置き場所が定まっているということだ。

それを踏まえた上でのこの眼差しなのであればどう受け止めればいいのだろう、たまらず目を泳がせたレプリカは千羅の方を見つめた。千羅もまた苦々しい表情でカルサの横顔を見つめている。

分かってほしい。ただ罪悪感を背負うのではなく、自分たちの思いを分かってほしい。

諦めるのではなく、遠慮もせずに、自分たちの存在を力に変えてほしい。ただそれだけなのに。

「笑っていて欲しいんです。背負っているものを分け合えたり代わる事が出来ないのなら、せめて笑っていられる時間を増やせれるように。」

レプリカの熱い思いは千羅の心に共鳴していた。彼女の気持ちが強くなる度、千羅の気持ちも強くなる。二人は目頭が熱くなるのを感じていた。

「笑っていて欲しい。苦しむ顔は見たくないんです。」