「大きくなったな。」

「えっ?」

「あんなに小さかったのに…。」

意外な言葉がリュナに贈られ疑問を積み重なった彼女の正直な気持ちが口からこぼれる。

「私をご存じなのですか?」

「あ、いや。幼い子が風神の称号を得たと聞いていたから。すまない。」

いえ、と答えつつも違和感が少し残った。沙更陣の目はまるで懐かしむように淋しそうでもあったからかもしれない。

「あの中は寒くなかったか?中で咲いているのは魔界の花といわれているものなんだ。」

「魔界の?」

「寒く薄暗い闇の中で光を放つ花。魔界でもあまり数は無いらしい。」

リュナは再び中を見た。しかし外の明るさに比べ暗すぎて中の様子はほとんど見えない。淡い光でさえ存在を明らかにしなかった。

「中の暗闇は魔界と同じですか?」

「おそらくな。環境は似ていると思う。私は中には入れない。とてもじゃないが、身震いして足がここより進まないんだ。」

驚いてリュナは視線を沙更陣に戻す。苦笑いをしている様子を見て冗談ではないと悟った。しかしリュナには不思議でならない、自分は確かに。

「入れました。」

遠慮がちに何故自分は入れたのかをその一言で投げかけた。

「じゃあきっと私は嫌われているのだろう。」

まるで核心に触れたものを優しくかわすように沙更陣は笑う。そしてまた意味深な言葉を続けたのだ。

「心優しい君をあの花も気に入ったんだろう。きっと優しい人に育てられたんだろうな。」

まるで小さい子供の頭を撫でるようにそっとリュナに触れる。その時の哀しげな表情は、リュナの目に焼き付いて離れなかった。