「レプリカ。」
「申し訳ありません。ですが…やはりお辛いのではないかと。」
必死に涙を堪えながらレプリカは訴える。カルサは微笑む事でそれに答え、横目で千羅を確認するとまた微笑んで苦笑いをした。
「ああ、全部辛い。」
ふざけて出た言葉が本気かどうかは分からない。それでも彼をまとう空気が変わった。
「そうですね。そりゃそうだ!」
合わせるように千羅が笑う、つられてレプリカにも笑みが戻った。しかし穏やかな空間は長くは続かずに、レプリカの涙も乾かないうちに話はまた戻ってしまう。戻したのは他ならぬカルサ自身だったが、彼にはまだ聞いておきたい、伝えなくてはいけない事がるのだ。
「レプリカ、もう一つ聞きたい事がある。」
急な言葉にレプリカは正しく反応する事が出来なかった。カルサは誰よりも早く真剣な表情に変わり、残された千羅とレプリカを一気に自分の方へ引き戻す。
「リュナが魔性の血を持っている事は知っているか?」
核心に触れたカルサに千羅は目を細めた。
レプリカは大きく目を開くと震える手で口を覆い、信じられないと表情でカルサに訴える。
「いいえ。」
否定の声を出しながらも目が真実をカルサに求めていた。自然と前傾姿勢になり、その言葉の先を求める。
「本当ですか?」
長年共に過ごしてきてそんな様子は少しも見られなかった。光の中で生き、他の人間となんら変わりなく過ごしてきたのだ。ただ信じられない気持ちでいっぱいだった。
「だって、今まで。」
「一度封縛された時、遺伝子が目覚めたのかもしれない。それ以降リュナの体調がおかしくなった。」
レプリカの言葉を遮りカルサは可能性を告げる。
それが大きく響いたのであろう。レプリカの中にも思い当たる節がいくつか見つかり、苦々しい表情を浮かべた。確かに彼女は光が溢れる天気では体調を崩し、曇りの日は反対に調子を戻していたのだ。
「リュナ様の力が強くなったのは、本来の状態を得たからなのでしょうか。」
それはカルサの言葉を受け入れた上での言葉だった。
「そうかもしれないな。」
頭に浮かんだのはロワーヌと戦っているリュナの姿。確かにあの時の彼女は強く、戦士の名に相応しい程の戦い方だった。
今までの彼女は環明よりも力が弱く戦士と呼ぶには難しい印象が強かったのが正直なところだ。どちらかと言えば攻撃よりも癒しの力の方が優れていたような気がする。環明の力がリュナに合わなかったのかもしれないと思う程だった。
特殊部隊ではその力を思う存分に発揮していたと聞いていたし、突然その実力を惜しみなく披露し始めたとも聞く。それこそ封縛から戻った後のことで周りから見れば休養期間を取り戻すかのような頑張りだと思われただろう。
しかしそれこそが本来の状態を得たということだったのだ。
「でしたら、ウレイ様が父親ということに疑問を持ちます。お二人ともに魔性の血は含まれていませんから。」
リュナの出生について長年疑問を持ち続けていたのであろう。レプリカは信じられないと拒否するのではなく、カルサの言葉を素直に受け入れた。それ程までに彼女の中でもリュナにまつわることは謎が多かったということなのだと感じさせる。
「セリナ様の過去は何も探るつもりはありませんでした。全てを捨て、新しくリュナ様として生きていく妨げにはしたくありません。」
少なくとも今まではそうだった。どれだけ気になったとしてもセリナを封印しリュナとして生きるには関係がない事だ、しかし今はそうも言っていられない。
「これからはリュナ様を守る為にも、全てを知る必要があります。」
レプリカの目はまっすぐカルサに向けられた。それは決意を秘めた眼差しだ。
「皇子、沙更陣様にお会い下さい。」
唐突な提案、しかも予期せぬ人物にカルサは目を細めた。あれから何かとあってオフカルスには足を踏み入れていない。実のところで言えば彼らがどうなっているかも全く分からない状況なのだ。それでも強引にでも行こうという気持ちがわかなかったことについてはカルサ自身であえて蓋をしている。
「何故、沙更陣なんだ?」
「沙更陣様がリュナ様におっしゃった言葉が気になります。」
カルサは疑問符を表情にした。
レプリカが言うには、以前御劔の総本山に行った際のリュナの話に気になるところを見つけたようだった。リュナはいくら一番近い存在といえど、カルサの秘密をレプリカにも話さずに当たり障りのない程度に報告をしていたらしい。
どんな宮殿があって、国の様子がどんなものであったかの話を聞いている間にそれがオフカルスである事にレプリカは気付いてしまった。特に決定打となったのは、あの人物の名前。全ての元凶とされ、世界を動かす歯車を回し続けている女性・玲蘭華の名前だったのだ。
「リュナ様は玲蘭華様にお会いした後、しばらく一人で宮殿の中を探索していたそうです。」
自由気ままに建物の中を歩き回っていくと中庭に繋がる扉を見つけた。外に出て目にしたのは色鮮やかに咲き誇る花壇で、まるで絨毯のように広がる景色は自然とリュナを笑顔にさせたという。
そのすぐ先には背の高い木々が円を描くように並び、その中だけ日陰になっている場所があった。この光り溢れる場所にぽつんと作られた日陰は不思議と違和感もなく存在している。
よく目を凝らして見ると中に何かあるのが分かった。
リュナは様子を伺いながら近づいていく。中の温度は日が当たらない分、少しひんやりとしていた。まるで吸い寄せられるように中に入れば不思議とその空間は彼女にとって心地がよかったのだ。その余韻に浸る間もなく視界に入ったのは守られるように咲く淡い水色の花、それは当たり前のようにリュナの目を奪う。
美しいというよりも吸い寄せられると言った方が適切に状況を表現している、そんなことを頭の片隅で考えた時だった。
「誰かいるのか?」
入り口辺りから声がかかって反射的に肩が跳ねる。
振り返ると沙更陣が中の様子を伺っているのが分かった。確かに目が合ったと思ったのに沙更陣の反応は鈍い。外の光が強すぎて中はほとんど見えないのだろう。リュナから見た沙更陣はとても輝いて見えた。
「リュナ・ウィルサです。」
リュナは名乗りながら外へと向かう。
「申し訳ありません、何があるか気になったもので中に入ってしまいました。」
顔を出すなり経緯を話して深々と頭を下げながら謝罪をした。まだ目がチカチカとするが今はそんなことは関係ない、てっきり叱られるかと思いきや沙更陣は意外にも少し驚いたような表情をしていた。
「いや、構わないが。」
沙更陣の言葉に顔を上げ表情で疑問符を投げかける。目があった沙更陣の顔つきは穏やかになり、優しい微笑みを浮かべた。それは明らかにリュナに向けたものだった。
「大きくなったな。」
「えっ?」
「あんなに小さかったのに…。」
意外な言葉がリュナに贈られ疑問を積み重なった彼女の正直な気持ちが口からこぼれる。
「私をご存じなのですか?」
「あ、いや。幼い子が風神の称号を得たと聞いていたから。すまない。」
いえ、と答えつつも違和感が少し残った。沙更陣の目はまるで懐かしむように淋しそうでもあったからかもしれない。
「あの中は寒くなかったか?中で咲いているのは魔界の花といわれているものなんだ。」
「魔界の?」
「寒く薄暗い闇の中で光を放つ花。魔界でもあまり数は無いらしい。」
リュナは再び中を見た。しかし外の明るさに比べ暗すぎて中の様子はほとんど見えない。淡い光でさえ存在を明らかにしなかった。
「中の暗闇は魔界と同じですか?」
「おそらくな。環境は似ていると思う。私は中には入れない。とてもじゃないが、身震いして足がここより進まないんだ。」
驚いてリュナは視線を沙更陣に戻す。苦笑いをしている様子を見て冗談ではないと悟った。しかしリュナには不思議でならない、自分は確かに。
「入れました。」
遠慮がちに何故自分は入れたのかをその一言で投げかけた。
「じゃあきっと私は嫌われているのだろう。」
まるで核心に触れたものを優しくかわすように沙更陣は笑う。そしてまた意味深な言葉を続けたのだ。
「心優しい君をあの花も気に入ったんだろう。きっと優しい人に育てられたんだろうな。」
まるで小さい子供の頭を撫でるようにそっとリュナに触れる。その時の哀しげな表情は、リュナの目に焼き付いて離れなかった。
「育てられたと、確信を持って話されている辺りが気になります。まるで実の両親ではないと言われているような気がしました。…それはリュナ様も感じていたようです。」
レプリカの言葉にカルサも頷く。沙更陣の言葉は腑に落ちない事があるのは確かだ、両親ではなく育ての親がいるのだとそう容易く分かるものだろうか。
古の民の子孫、生まれ変わり、その者たちの一部が特殊能力を持ち、さらに一部が御劔としてオフカルスに戻る。その数は少ないとは言えない筈だ、一人一人気にし始めたら限りがないだろうとも思うのだが。
「風神だから気にしていた。そう言われたら話が終わってしまうな。五大皇力を持つ者は特別だ。」
「しかし、万に一つの可能性はありますね。」
カルサに付け足すように千羅が発言した。レプリカが気にするのも分からなくはない、しかし裏を知っているからこそ気になっているだけの所も少なからずあるだろう。その可能性は否定できないのだ。
「沙更陣に直接聞く。どちらにせよオフカルスには行かなければいけない。」
顔を上げ二人と目を合わせると千羅もレプリカも頷く。しかし、レプリカの表情は歪み再びカルサに頭を下げた。
「陛下、自分勝手と分かってお願い申し上げます。」
頭は下げたまま言葉を続ける。レプリカはカルサの合図を待っていた。
「何だ?」
「リュナ様をお守り下さい。もしここがリュナ様の帰るべき場所になるのであれば、連れ戻してほしいのです。」
レプリカはカルサに対し頭をあげる事無くさらに話し続ける。声に力があった。それは強い気持ちの表れ、レプリカの強く主人を思う気持ちが全面に出ていた。
「リュナを取り返してこいと。」
「はい。」
肯定の返事で身体が揺れる。カルサにはレプリカが何を求めて何をやろうとしているか分かってしまった。
「リュナの居場所を作る為に、また自分の存在を消すのか。本当は自分が傍に行きたい筈だろう?」
カルサの言葉にレプリカの身体が無意識に反応する。カルサの表情が歪み、それは声の表情となりレプリカにも伝わっていた。
「何がそこまでさせるんだ?」
カルサは椅子から離れ片膝をついてレプリカの前に座った。つまりはレプリカの前に跪いた形になる、頭を下げたままのレプリカにもそれは分かり緊張が走った。
カルサの両手はレプリカの両腕をとらえてゆっくりと顔を上げるように促す。抵抗する事無く促されるままにレプリカは顔を上げていく。目の前には寂しげな表情を浮かべたカルサが真っすぐに見ていた。
何故そんなに寂しそうな顔をするのだろう、そう思うと同時に無意識に涙が込み上げてきた。
「何故自由にしようとしない?思うように自分を動かせばいいだけだろう?お前が犠牲になることはない。」
それはカルサの願いのようで頼むからやめてくれと説得されているように感じられた。その眼差し、熱い思いは深く心に響いてくる。しかし向けられた感情は哀れみや同情に程近かった。
「犠牲になるという表現は違います。私たちは決して自分を犠牲にしたりはしません。」
優しい微笑みがカルサに向けられる。彼女の言葉は確かに千羅の気持ちも代弁していた、それはカルサが放つ言葉が自分のことだけではないと気付いたからだ。レプリカが目配せをすると思わず千羅からも笑みがこぼれる。
「家族を守る為に必死になる事は当たり前です。忠義でもなんでもない、好きだから守る。大切だから守りたい、底にあるのは本能です。」
次第に真剣になる表情、眼差しはカルサを捕えて離さなかった。しかしカルサの目を見れば分かってしまったこともある、こんな言葉では彼は納得しないのだと感じてしまったのだ。
それだけ言っても伝わらないかもしれない、そう頭の中で過った瞬間に悔しさが込み上げてきた。
「自分を犠牲にするという事は命を投げ出す事、そんなことしません。そんな悲しませるような事、絶対にしません!」
少し声を荒立ててもやはり何も響かなかったのだ。それどころか彼の眼差しはますます悲しく曇っていくようにも感じる。
責めているのだ。
自分の存在によって巻き込んでしまう人間に対して後ろめたさを常に抱えてしまっているのだ。それを悟った瞬間にさっきまでのカルサとの会話を思い出した。
彼は既に皇帝の力を継承している、つまりはその命の置き場所が定まっているということだ。
それを踏まえた上でのこの眼差しなのであればどう受け止めればいいのだろう、たまらず目を泳がせたレプリカは千羅の方を見つめた。千羅もまた苦々しい表情でカルサの横顔を見つめている。
分かってほしい。ただ罪悪感を背負うのではなく、自分たちの思いを分かってほしい。
諦めるのではなく、遠慮もせずに、自分たちの存在を力に変えてほしい。ただそれだけなのに。
「笑っていて欲しいんです。背負っているものを分け合えたり代わる事が出来ないのなら、せめて笑っていられる時間を増やせれるように。」
レプリカの熱い思いは千羅の心に共鳴していた。彼女の気持ちが強くなる度、千羅の気持ちも強くなる。二人は目頭が熱くなるのを感じていた。
「笑っていて欲しい。苦しむ顔は見たくないんです。」
ただ傍で一緒に笑い合える事の幸せがどれ程大きなものか、それを分かってほしい。傍にいる者が強く願う程に貴方たちはとてつもない大きなものを背負っているのだと、それがどれだけの人を救うことになるのかを感じている者は少なくない。
一人が犠牲になるにしては大きすぎるのだ。
「だからといって自分たちの存在を消すのか?影に撤して、その重荷を更に背負うのはこっちなんだ。素直に喜んで受け入れられる程の余裕もない。そんな器でもないし、後ろめたい事ばかりだ。」
珍しく感情をむき出しにしたカルサが顔を歪ませた。
弱音を吐いているのは自分でも分かっている、しかし古くからの自分を知るレプリカと話をしていると気を張り、背伸びしていた自分が原点に戻されていくのだ。あの頃の、等身大で精一杯生きてた自分が甦る。
出来るなら本当はずっとやりたかった事があるのだ。
「俺は謝りたい。迷惑をかけた古の民や、その末裔たちに面と向かって…頭を下げて謝りたいんだ。自己満足だと分かっていてもその気持ちが常にある。」
ずっとカルサの心の底にあった気持ち、本来なら謝らなければいけない相手から力を貰い補佐までして貰っている状況は居た堪れなかった。自分を慕い力の限りを尽くしてくれていることに恐縮するばかりだ。
「俺はそんな偉い人間じゃないのに…支えようとしてくれる皆の優しさが辛い。俺はあの女の…。」
言葉に詰まりカルサは視線を下に外した。それは後ろめたさを表している。
「玲蘭華と俺は同類だ。」
握り締められた拳にさらに強く力が加わった。
脳裏に深く刻まれた太古の残酷な出来事は、時を越えても彼らを苦しめ続けている。間接的に、時には直接的に特殊能力という形で彼らを戒めている。
本当なら長い年月を経て進化を遂げ、古の民の持つ力は世界に馴染んでいっただろう。それをいきなり個々に未来へ飛ばされ、生きていかなければならなくなった。
どれほどの苦労か想像もつかない。それを考えるだけでカルサは申し訳なさが溢れ出して自分を責めずにはいられなかった。マチェリラの話を聞くに彼女だけが特別な状況では無かった筈だと思ったのだ。
現にこの国でさえも特殊とされているのだから。
「世界の歯車を狂わせた女、俺はその場にいたにも関わらず止める事が出来なかった。それだけでも罪は重い。それに狂った歯車をこれ以上狂わせないようにする使命がある。」
苦しみが声と表情に滲み出ていた。まるでつぶし合う様に強い力で組み合わせた手が口元で怒りに震える。
「それがヴィアルアイを倒すという事ですか。」
付け足すように声を出したのは千羅だった。カルサは何も答えずに目を閉じる。
「何もかも背負い過ぎです。それで何が変わるんですか?自分の命を懸けてヴィアルアイを倒して、一体何が変わるんですか?」
千羅の声に力が入った。それでも反応を見せないカルサに苛立ちが加わり千羅の身体に力が入る。声を張り上げ千羅は思いをカルサにぶつけた時にはカルサは閉じていた目を開く。その瞬間をレプリカは黙ってみていた。
「昔は知らない、でも今のヴィアルアイは皇子を苦しめる愉快犯になりつつある。そんな奴を倒して世界が変わる!?俺にはそうは思えない!」
言葉遣いを選ばない千羅の声が強く部屋中に反響する。
「世界なんて関係ないところで事が終わるだけじゃねえか!」
「黙れ…!」
強い強い千羅の思いが叫び声になって外へ出ていく。冷静さを保とうと何も口に出さなかったカルサも思わず感情が昂り勢い良くその身体を起こした瞬間、レプリカの声が二人を止めた。
「ヴィアルアイ様を止めなければ世界は滅びます!」
レプリカの瞳は千羅を真っすぐ捕らえていた。
「邪竜は力ある者を狙う、統率者を失えば世界は滅びます。だからオフカルスは滅びたんです。」
苦痛の表情で全てを訴える。彼女は環明の記憶を持っている、それ故に鮮明にあの出来事が脳裏に焼き付いていた。
始まりの世界が滅びゆく姿をその目で、環明の記憶でレプリカは知っている。そんな彼女の言葉が重くのしかかってきた。
「皇子、それでも私の気持ちは千羅さんと同じです。皇帝の力を使おうとしておられるのであれば、それ以外の道を!」
「言うな、レプリカ!」
レプリカの言葉を遮りカルサは強く制す。思わず身体を引いてしまう程に彼からの威圧が感じられレプリカは言葉を止めた。
「千羅も、これ以上は口を慎め。」
歯を食い縛りカルサの言葉に従おうとする千羅の拳は固く強く握りしめられていく。まだまだ言いたいことがあると態度で示していたがカルサはそれに見ぬふりをした。
「俺は皇子としての役目を果たす。それがどのような形であれ選んだ道だ。分かってくれ。」
落ち着きを取り戻した声は殆どが千羅に向けた言葉だ。カルサは再びレプリカの前に座り、見上げるように位置した。複雑な表情を浮かべ今にも泣きそうなレプリカを黙って見つめる。
レプリカは頭を下げて謝罪をした。
「ご無礼を…。」
「顔を上げろ。」
涙を拭い言われたように顔を上げる。必死で涙をこられるように食い縛る姿はどこかリュナに似ている気がしてカルサの心を和らげた。
「お前には嘘をつけない。ごまかしも曖昧な態度も、逃げる事も出来ない。」
予想もしない言葉に必死で食い縛る気持ちが和らいだ。いつのまにか目の前にいるカルサは優しい表情をしていた。
カルサは千羅に傍にくるように促し、近くにきたのを感じると再び視線を前に戻す。
「お前には感謝している。リュナに会わせてくれた、あいつをいつも支えてくれた。今は俺を案じてもくれている。」
カルサの言葉にレプリカは何度も横に首を振った。
「俺は近いうちにヴィアルアイの許へ辿り着くだろう。きっとそれで全てが決まる。太古の時代は終わり、新時代に変わるはずだ。」
太古と呼ばれ追憶の中にしか存在しないとされている時代は終わってなどいない。今も尚、因縁という形で縛られ身動きがとれないまま抜け出せずにいるのだ。たとえ王が変わろうとも、それ以外何も変わらなければ意味がなかった。
この沈黙の時代は終焉へと向かっている。
「オフカルスの事は俺たちに任せてくれ。今見た様に本音でぶつかり合える仲間がいる。」
カルサは千羅の方を横目で指して微笑んだ。千羅からは見えないだろうカルサの表情は声色から想像できたのだろう、その時の千羅の照れくさそうでもどかしい複雑な表情をレプリカは見逃さなかった。千羅の抱えている大きな想いを感じ取っていた。
「お前たちが思う程には最悪な結末にならないと思う。不思議とそんな気がするよ。」
穏やかな気持ちで出た言葉は二人の意識に変化を与える。自然と顔が上がりカルサへと視線を向ける二人の視線を感じたカルサは微笑んでみせた。
「ただ表面に色んな事がありすぎると俺もブレてしまう。有難い事に軌道修正をしてくれるのが千羅と瑛琳なんだ。」
突然の話の展開に千羅は思わず目を丸くしてしまった。今まで感謝の気持ちを聞いた事が無いわけではなかったが、ここまで深い心の内を話してくれたのは初めてだったのだ。