レプリカが言うには、以前御劔の総本山に行った際のリュナの話に気になるところを見つけたようだった。リュナはいくら一番近い存在といえど、カルサの秘密をレプリカにも話さずに当たり障りのない程度に報告をしていたらしい。

どんな宮殿があって、国の様子がどんなものであったかの話を聞いている間にそれがオフカルスである事にレプリカは気付いてしまった。特に決定打となったのは、あの人物の名前。全ての元凶とされ、世界を動かす歯車を回し続けている女性・玲蘭華の名前だったのだ。

「リュナ様は玲蘭華様にお会いした後、しばらく一人で宮殿の中を探索していたそうです。」

自由気ままに建物の中を歩き回っていくと中庭に繋がる扉を見つけた。外に出て目にしたのは色鮮やかに咲き誇る花壇で、まるで絨毯のように広がる景色は自然とリュナを笑顔にさせたという。

そのすぐ先には背の高い木々が円を描くように並び、その中だけ日陰になっている場所があった。この光り溢れる場所にぽつんと作られた日陰は不思議と違和感もなく存在している。

よく目を凝らして見ると中に何かあるのが分かった。

リュナは様子を伺いながら近づいていく。中の温度は日が当たらない分、少しひんやりとしていた。まるで吸い寄せられるように中に入れば不思議とその空間は彼女にとって心地がよかったのだ。その余韻に浸る間もなく視界に入ったのは守られるように咲く淡い水色の花、それは当たり前のようにリュナの目を奪う。

美しいというよりも吸い寄せられると言った方が適切に状況を表現している、そんなことを頭の片隅で考えた時だった。

「誰かいるのか?」

入り口辺りから声がかかって反射的に肩が跳ねる。

振り返ると沙更陣が中の様子を伺っているのが分かった。確かに目が合ったと思ったのに沙更陣の反応は鈍い。外の光が強すぎて中はほとんど見えないのだろう。リュナから見た沙更陣はとても輝いて見えた。

「リュナ・ウィルサです。」

リュナは名乗りながら外へと向かう。

「申し訳ありません、何があるか気になったもので中に入ってしまいました。」

顔を出すなり経緯を話して深々と頭を下げながら謝罪をした。まだ目がチカチカとするが今はそんなことは関係ない、てっきり叱られるかと思いきや沙更陣は意外にも少し驚いたような表情をしていた。

「いや、構わないが。」

沙更陣の言葉に顔を上げ表情で疑問符を投げかける。目があった沙更陣の顔つきは穏やかになり、優しい微笑みを浮かべた。それは明らかにリュナに向けたものだった。