辛すぎる現実に胸が痛み、思わず身を屈めるような仕草を繰り返した。涙を堪えようと上を向いても、たまらず身を縮めるようにうずくまる。

「レプリカ。」

カルサが口にする名前は彼女の意思を尊重して、レプリカと呼び続ける事を決めていた。カルサの呼びかけにレプリカは何度も頷く。

「私は確かにあの時代に生きていました。まだ幼かった分、記憶は曖昧ですが覚えているものも沢山あります。」

涙で震える声を懸命に絞りだし、何かを伝えようとしているようだった。

「皇子が温かな光の中で生きてらした事も知っています。強く優しく…ご自分に厳しいところにお変わりが無い事。日向様の事も、皆の記憶から消されていますが私は覚えています。だから尚更…私は辛いのです。」

胸を締め付ける苦しさに耐えるように右手は強く心臓辺りの服を掴んでいた。左手は強く握り締められている、そんな彼女は儚げに見えるが二人にはそれ以上に気になることが身体を固めていた。

しかしレプリカは二人の様子に気が付かずに俯いたまま涙を拭う。昂る感情を抑えようと必死に深呼吸をしようと試みた。しかしそれは無駄だったようだ。

「何故貴方様だけがこのような目に合わなければいけないのでしょう。悔しいです。心のすれ違いは…ここまで人を苦しめるものですか!?」

「…お前が泣く事じゃない。」

カルサの諭すような落ち着いた声が切なさを増す。レプリカは短く頷くが、それでも耐えるように俯いたままだった。

「お前が辛くなるような事じゃない。」

さっきよりも大きく、勢い良く二度頷いた。カルサは前かがみになりレプリカとの距離を縮める。

「昔と今と変わっていないか?」

今までとは違う雰囲気をだすカルサに促されたのか、ようやくレプリカは顔を上げた。寂しげに微笑む彼を見て、落ち着きを取り戻しながら呼吸を整える。

「はい。姿は違えど、何らお変わりはありません。」

鼻をすすりながら震える声で伝えた。そうか、と呟いた後にカルサの表情は苦々しく歪み厳しい顔つきになっていく。

「分からない者には何も見えない。でも分かる者には分かるということか、皮肉というか何だろうな。生憎と俺には別人に思えるよ。この身体はウレイの物だ。ヴィアルアイがここに来るのも無理はない。」

そう言うとカルサはレプリカの額に指先を当てた。