「正確に言えば…婚約者だった、か。」

頭の中を整理する時間を与えてくれたのか、自分自身に訂正を入れたのか、カルサの言葉によってレプリカの困惑が薄れていった。ライムという少女の背景が明らかになったのだ。

「まさか、あの力は…水の儀式を行っていたからですか！？でしたら皇子もまた皇帝の力を引き継がれたと…！？」

一つの糸に繋がった瞬間見えたものがある。

カルサの目は少しの曇りもなくレプリカを映していた、その中でレプリカは最悪の状況を考えついてしまったのだ。少しくらいならリュナから聞かされている彼にまつわる出来事を加えて想像した結果だ、それが真実とは限らないのに違うかもしれないと疑わなかった。

「皇子のご婚約のお話はまだ公になっておりませんでした。ヴィアルアイ様は…皇子をウレイ様と誤解なさってこのようなことをされているのでしょうか。」

「…知りたいか？」

そう言って微笑むカルサにレプリカは時間をおいてからか細い声と共に頷く。自分が聞いてもいいのだろうかという遠慮は生まれてこない、むしろ思考が麻痺したかのように求める事しか動かないのだ。

「環明の記憶を見たのだったら…あの人の変わり様も見ただろう。ウレイの話が出る前から俺とライムの婚約話は進んでいて…本来あの日は俺たちの継承儀式を行う筈だったんだ。」

カルサは少し伏せ目がちに遠い目をしていた。何も言わず何も答える気はなかった。そんな彼を見ていられない。

「この地はウレイが治めていたもの。だからそこに雷神…光の神として統治する俺を迷いなく目指したんだろうな。もう…あの人には何も見えていない。」

本来なら泣き叫び、抱えきれない感情を吐き出してしまいたいに違いないだろう。カルサの胸中を思うとレプリカは居た堪れない気持ちになった、彼は吐き出すことが出来ずに全て内側に秘めている。どこまでリュナが聞かされていたかは分からないが、カルサの為に必死になる姿を思い出すと余計に胸が締め付けられた。

そんな彼を目の前にしながら頭の中で組み立てられていく出来事、複雑さと残酷さが明らかになりいつしかレプリカの目には大粒の涙が浮かんでこぼれ落ちた。

「申し訳ございません。」

不謹慎にも涙を流してしまった事を謝罪する、しかし拭っても拭っても止まる事を知らない涙はこぼれ落ちていった。優しく耳に入るカルサの声が余計に胸を締め付ける。

「お前が泣くか。」

「申し訳ございません。ただ、あまりにも。」