「あの、皇子…。」

「その少女、名前はライムで間違いないか？」

レプリカの言葉を遮るようにカルサは確認した。まるで余計な気遣いはいらないと言っているようにも聞こえ、レプリカは戸惑う気持ちを抑えながらも答えようと口を開く。

あの時のことを思い出した。

「はい、彼女は自ら名乗っておりました。」

自らは何とでも名乗れる、普段なら頭の片隅に置く程度で信じる事はなかった。しかしカルサは深い碧い瞳に覚えがあったのだ。もし彼女が本物であれば。

「水の力を使っていたか？御劔相当の力の持ち主であれば、おそらく俺が知る人物に間違いない。」

カルサの話を聞いている間に記憶を振り返る。確かに彼女は水を操り、御劔相当とも言える程の力の強さが感じられた。

何よりもそれ以上ではないのかと疑ったほどだ。彼女は宙に浮いていたのだから。

「はい。水の力を操り、御劔相当の強い力の持ち主でした。」

レプリカの答えは聞く前から分かっていたが、やはり確かめて良かった。ふさぎ込むように目を閉じて得られた全ての事実を受け入れる。

何故こんな事に、何故こんなにも。この身も心も全てバラバラにされても足りない程の感情を与えていくのだろうか。脳裏に甦る記憶は懐かしくも苦しい、今はただ愛しむ事さえも許されないものと化してしまった。

「そうか。ライムはこの時代のこの世界に生きていたんだな。」

優しく響く声が自身を含む三人の胸を締めつける。どれほど声を張り上げて泣き叫び、もがいたところで何も変わりはしない。それでも叫びたかった。

しかしその衝動を超えた感情が全ての動力を奪ってしまったようだ。何故か笑みが零れる反応に気でも狂ったかと自分自身を疑ってしまう、自嘲気味に吐いた震えるため息を無遠慮に落とすと、カルサは呟くようにレプリカの問いに答えた。

「彼女は俺の婚約者だ。」

あまりに躊躇する事無く告げられた真実に頭の中で整理が付かない。

「え？」

もう一度聞く為に口にした訳ではない、頭の中で抱えきれない感情を一度吐き出す為に無意識に出た言葉だった。今までの情報が一気に繋がっていく。