「深い碧い瞳をした、ライムという少女を知っていますか?と、尋ねました。」

その存在は千羅の世界からさえも音を奪う。

「ライム。」

思わず漏れた小さな声は無意識に出たものだった。千羅もカルサと同じように目を大きく開き動揺している、しかしカルサよりは冷静さを保っているようだった。

千羅はカルサの方を向いて表情が苦々しく歪ませる。千羅はそのまま続く言葉を押し込んで黙ってしまった。気遣う様にカルサの肩に手を乗せてきつく目を閉じる。

千羅にはカルサの苦しみや辛さが分かっているのだろうとレプリカは思った。

「そうですか。それで、リュナの情報は伝えていただけたのでしょうか。」

少しレプリカが俯いている間に千羅は気を取り戻したらしい。いつものように振る舞い、まるでその流れに乗りレプリカも心安らかになるようにと促されているようだ。

「先の神官・環明様からお預かりした方で、環明様のお子であるという事。風の力は環明様より直々に引き継いだものであるという事。しかし、おそらくは環明様のお子ではないかもしれないという事をお伝えしました。」

レプリカの話は簡潔にまとめられたが、複雑な背景があることは容易に感じられた。

「今回の襲撃で不思議な少女に出会いました。皇子の真実を問う少女に覚えはありますか?と尋ねたところです。」

話の道筋が繋がり千羅は何度も頷く。

「何か、深い縁がある方ですか?」

自分が踏み入るにはあまりに恐れ多いのかもしれない、おそらくそうであろう事も気付いていたが聞かずにはいられなかった。

あの少女は特殊な力を持っていた。

御劔、古の民、いずれに当てはまるのは確実だろう。しかし何故セリナの事を知っているのか。含んだ言い方だったが、明らかに何かを知っているはずだ。レプリカにはあの少女が何者かが気になって仕方ない。

千羅はカルサの様子を見た。偶然か、それと同時に千羅の服を掴む手が緩み縮めていた身体をゆっくりと開くように起こす。震える呼吸が彼自身を落ち着かせようとしているのだと伝わってきた。

「皇子。」

「大丈夫だ。すまない、取り乱した。」

顔を起こして改めて二人の顔を見る、二人ともが心配そうに様子を伺っていた。