「お…皇子?」

たまらず彼を呼んでみた。

カルサは何とか答えるように何度も頷く、手の奥で深呼吸をし自分を取り戻そうとしているようだが依然彼の手は震えていた。

何かまずい事を口にしてしまったのではないか、罪悪感と後悔がレプリカの中に生まれる。

「すまない。」

自分の中に抑えきれず身体を縮めるように俯いてしまった、こんな姿の彼を見るのは初めてだった。むしろ誰も見たことがないのではないだろうか。

想像を絶する状況にレプリカも混乱し始めた。何か言おうにも何と声をかけたらいいか分からない、何の解決策も見つからなかった。

ここには誰もいない、結界も張ってある為誰も近寄ることが出来ない。どうしようか、焦る気持ちで誰かいないかと辺りを見回した時に視界に入った人物がいる。

確かにここにはカルサとレプリカの二人だけしかいなかった筈なのにとレプリカはまた驚きを重ねてしまった。そんな彼女に構うことなく千羅は声をかける。

「カルサ。」

カルサは声を聞いて初めてそこに千羅がいる事に気が付いた。おそらくカルサの結界は彼を拒まなかったのだろう、難なく入り、いつものようにカルサの傍に付いていた。

千羅の気配を感じ取るとカルサは口を押えていない方の手で千羅の服を掴む。助けを求めるように、決して離れないように、強く強く掴んで僅かに引き寄せた。

カルサの状態はどうみても普通ではない、しかし状況が分からない千羅は混乱しているレプリカに問うしかなかった。

「一体、何故こんな事に?」

千羅の声は聞こえ、意味も理解はしているがレプリカは答える事が出来なかった。またあの言葉を出すとカルサはどうなってしまうのだろう。その不安が彼女を止める。

レプリカは千羅に目で拒否を訴えた。

「大丈夫です、構わない。」

この状況、レプリカの状態も分かった上で千羅は伝えた。

「教えて下さい。」

優しく低く響く声は、威圧でもなく、お願いをしていた。千羅の想いを受け、少し考えた上でレプリカは頷く。声にするのに勇気がいるが、それでも千羅に答える為に顔を上げた。