懐かしい記憶を呼び起こしレプリカはゆっくりと瞼を閉じた。

「オフカルスの全てを取り去り、新しく生まれ変わるために私の名を差し上げました。おこがましいとは思いましたが…それが私の決意だったのです。」

再び開いた瞳はどこか遠い目をしているようにも思える。まだ思いを昔に戻したままなのだろう、レプリカはそのまま言葉を続けた。

「ウィルサを名付けたのはアバサでした。新しく生きるリュナという意味合いを込めて私たちが贈った名前がリュナ・ウィルサです。」

そうして訪れた静寂。一見レプリカが話し終えたかのようにも思えたが、黙ったままレプリカを見ていた。まだ話は終わっていない、そんな確信がカルサの中にある。

「私は…セリナ様は環明様の子ではないと、思っております。」

「アバサの言葉か。」

カルサに同意するように頷いた。環明の子供だと、再度繰り返された言葉はまるで植付けるようにも取れかねない程だった。

「気になる事があります。」

レプリカの言葉にカルサは視線を送る事で反応を示す。

「今回の襲撃で私とセリナ様はある少女に出会いました。彼女はセリナ様に向かって真実を問いました。そして皇子の真実も。」

「お前は何故俺が皇子だと知った?リュナか?」

「いいえ。少しばかりお話を伺ったことはありますが、私自身が貴方様のお名前を憶えていましたので気が付いたことが大きいです。…極め付けは、あの方の登場でしたが。」

あの方、それだけでカルサには十分すぎる程伝わったらしい。顔つきが厳しくなり、それ以上の追究はやめた。

「皇子、ライムという名に覚えはありますか?」

そう口にした後でレプリカの目が大きく開いていく。

今まで眉をひそめたり目を細める程度でしか感情の変化を表さなかったカルサが、ゆっくりとだが目を大きく開き動揺の表情を見せたのだ。微かに聞こえてきたのは小さな声で疑問符、口元は震えているようにも見える。想像以上の反応にレプリカも戸惑いを隠せなかった。

「あの、深い碧の瞳をした少女なのですが。」

次いで与えられた情報にカルサは口元を手で覆うと何か吐き出しそうな衝動に耐えるように背中を丸める。目は泳ぎ、動揺から息が荒くなる、そんな彼の姿を見るのは初めてだった。どうしていいのか分からず、レプリカもただカルサの姿を見ているしかない。