「アバサ、この子は私の子です。私の全ての力をこの子に授けました。」

環明の身体が透明度を増していく、それに全員が気付いていた。

「セリナをお願い。せめてこの子だけでも幸せになれるように。お願い、アバサ!」

やがて光は消えていく、それが彼女が残した最後の言葉になってしまった。

しばらくは彼女の姿を探すように、さっきまでいた筈の宙を見つめたまま固まってしまう。二人は動けなかった。しかしアバサの腕の中、静かに眠る形見はアバサを現実へと引き戻していく。

アバサは振り返り、まだ幼いレプリカと目線を合わせて口を開いた。

「リュナ、今から言う事をよく聞いて。」

忘れていた太古の記憶は環明の姿を見た瞬間に少なからずレプリカも取り戻している。ただならぬ状況も察知して自然と身構えてしまった。

アバサはさっき環明がしていたように自分の手をレプリカの額に当て、その瞬間に環明の記憶がレプリカの頭の中にも入ってきた。

「この子は環明様の子。私たちはあの方の望んだとおり、この子を守っていかないといけないの。」

レプリカの中に抱えきれない程の様々な感情が流れてくる。たまらず身体が心を支えようとレプリカの瞳から涙が溢れだした。どれほどの苦しみか、どれほどの無念か、計り知れない想いが小さな身体を駆け巡り犯していく。

「ここはもうオフカルスじゃない、あそこは古えとなってしまった。私たちは古の民、それでも今を生きなくてはいけない。」

自分たちが持つ記憶をセリナに渡す必要はない。何も知らないところで、何にも縛られる事無く自由に生きさせてあげよう、それがアバサの決意だった。

風の力を受け継いだセリナが争いに巻き込まれないように、全力で彼女を守ることこそが環明の望みを叶える事だとアバサは続けた。

「いい、リュナ?この子は環明様の子。絶対にお守りするの。」

再度繰り返される言葉をレプリカは全て受け入れる。それを証明するようにレプリカは微笑みながら決意を告げた。

「全てからお守りするのであれば、お祖母様。私の名をセリナ様に。」

そうしてセリナという名は消えてしまったのだ。