「それ以外にも重症患者が次々と!とにかく、早く救護室へ!」

息をきらしながら必要最低限の事を伝え、再び兵士は元来た道を走りだす。明らかに動揺していた兵士に促されてカルサたちも走りだした。

前回の襲撃で深手を負ったナータックがやっと目を覚ました、彼の目覚めを誰もが待ちわびていたのだ。カルサの気持ちも昂って足が速くなっていく。必死で腕を振ったおかげか予想よりも早く救護室に三人は辿り着いた。

「陛下、こちらです!」

救護室の扉は開いたままで何人かが茫然と中を覗いている、カルサは彼らを擦り抜けながら中へと足を踏み入れた。しかし入った瞬間、カルサは足を止め千羅も同じ様に身構える。

部屋の中にかすかに残った光の煙、二人はそれに反応していたのだ。

「これは皇子の力?」

カルサは様子を伺うように辺りを見回す。

「陛下…。」

消えそうに呼ぶ声が聞こえカルサは強く反応する、それが誰なのかすぐに分かった。

「ナータック!」

声の方に駆け寄りカルサは久しぶりにナータックと目を合わせた。彼の周りにはまるで彼を守るように部下の兵士が並んでいる。兵士は静かにカルサに道を開けて距離をとった。

「陛下。」

「ナータック!よく目を覚ました、…ナータック!」

ナータックが差し出した右手をしっかりと両手で握り彼との距離を縮める。今にも泣きだしそうな自分にカルサは気付いていなかった。奇跡の様なこの瞬間を震える気持ちで迎えているのだ。

何の根拠も無しにナータックは微笑むだろうと思っていたカルサはナータックの厳しい表情に違和感を覚えた。

「陛下、お逃げ下さい…。貴方は狙われている。」

更に顔を近付ける事でカルサは疑問符を投げる。

「あの時…私はあの侵入者に言いました。ここはシードゥルサ国国王カルサ・トルナス様の城。即刻に立ち去れと。」