「分かった。では民の部屋に着いたらリュナもそのまま残れ。」

カルサの言葉に少し遅れて反応しいつの間にか俯いていた顔を上げる。

「ここは戦場だ。人が傷つき、傷つける場所だ。迷いや心の隙は死に直結する。中途半端な気持ちで戦場に来るな、仲間を殺すぞ。」

カルサの目は今まで向けられた事のない程、厳しいものだった。彼の威圧に負けそうな自分がいる。

これが戦い、これがカルサの生き抜いてきた世界。

「分かったな、リュナ。」

カルサの言葉にリュナは何も応えられなかった。

ただ見つめ返しているリュナを置いてカルサは先に進み始める。走り去っていくカルサの後ろ姿をただリュナは見ていた。

完全に立ち尽くしているのだ。

遠くから闘志に満ちた声、叫び声が響く。火が煙が辺りに立ちこめるこの城は戦場になってしまった。

力なく垂れていた手に力が入っていく。

リュナは強く拳を握り、もう一度気持ちを奮い立たせた。

強く。まだやれると顔を上げて一歩踏み出そうとした瞬間だった。風がリュナの横を駆け抜けていく。

「え?」

思わずこぼれた疑問符の声、風は通り過ぎもう見えなかった。妙な胸騒ぎを覚えて目を細める。

「また…この風…。」

いま感じた風は初めてではない、気にはなるがリュナは後ろ髪をひかれる思いでカルサの後を追って走った。

必死で追いつこうとしている間に民の部屋に近付いていく、進めば進むほど声が大きくなっていくのは人々の騒ぎと兵士たちの戦う声だった。

魔物の唸り声とぶつかって何とも言えない混乱の空気が漂っている。

走り近づいていく中でリュナはカルサの姿を探したが目の前にはいない。