ゆっくりと開いたリュナの目は遠くを見ていた。視線の先なんてどこでもいい、頭の中でいくつもの記憶を甦らせて結論を導き出す。

出てくるのはため息、思い返せば不可解な出来事が沢山あったことに気付いてしまった。

「私は多分…捨て子だったの。」

リュナの視線は落としたまま、カルサの方へは向けずに話し続けた。

「風神の力を持っている事に気付いた婆様が、レプリカと大切に育ててくれた。名前を付けてくれた、私に色々教えてくれた。」

名前、自分で出したその言葉に戸惑っていた。思い出すようにまた名前と呟く。

今になって思う、もっと自分の出生に疑問を持っていたら未来は変わったのだろうかと。何も知らなくてもいいという今を生きろと言う婆の言葉を信じるとともにもっと自分と向き合っていればよかったのではないのかと。

それを逃げるようにして怠ったが故に今こんな事になっているという憤りがリュナの中で膨れ上がってくる。

不安、不安、もしかしたら、そんな感情がリュナを満たしていった。

「私、今の自分がすべてだと思って…自分の事について何も知ろうとしなかった。私は魔物…古の民…私が…セリナ?」

久しぶりにカルサに向けられた目はまた潤いを取り戻していた。信じられない言葉が真実なら、もしそうだったらと不安で押しつぶされそうになる。

「セリナ?」

リュナから出た名前にカルサは目を細めた。

しかしリュナの中で不安がどんどん大きくなって自分ではどうしようもない。首を横に振り、取り乱し始めたリュナをカルサは彼女の両肩を掴む事で押さえた。

「リュナ、落ち着け。」

「あの人言ってた。セリナを探してるって、私の本当の名前を聞いてきた!」

「リュナ。」

落ち着かせるように彼女の名前をゆっくり呼ぶ。リュナは額に拳をあてて取り乱しそうになる自分を押さえようとしているが、息は荒れる一方だった。