「今に分かる。」

低い意味深な言葉を最後にロワーヌは闇で自身を塗るようにして姿を消してしまった。

彼女が去った跡に風が舞い、その場にしばらく沈黙が続く。

「リュナ、怪我はないか?」

一番最初に切り出したのはカルサで支えていたリュナの両肩から手を離して問いかけた。促されるように振り返ったリュナは視界に大きく入り込んできたカルサの傷に息をむ。

「カルサ、傷が!」

さっき見た時より出血が多くなっている、リュナは不安で押しつぶされそうになりながらもカルサの様子を伺った。

「大丈夫だ。それより聞きたい事がある。」

そう言って外陰を前に引っ張り傷を隠すように腰元で固定する、その後にリュナを射抜いた真剣な表情はこれからの言葉への緊張を高めた。

「リュナ、今の女は知り合いか?」

「え…っ?」

最初の言葉は耳を疑うような事だった。思わず聞き返した後に思考が付いてきて感情が身体中を支配する。

「そんな訳ない。何を言ってるの?だって…あの人は私たちを…ナルさんを!!!」

高まった感情と張り裂けそうな胸の内から声が大きくなるが、涙を堪えるため言葉につまってしまった。

堪えていた涙が押し寄せて大粒の滴をこぼしていく、手で覆った口からは嗚咽がもれていた。

「ナル…?千羅!!」

ここで現れた不自然な名前に胸騒ぎがしたカルサはすぐに千羅の名を叫び、声に反応した千羅は目で答えて頷くとすぐに姿を消す。

屋根の上にカルサとリュナの二人きり、辺りは戦火となり粉塵が舞い大気が震えていた。それがここからはよく見える。

ここはどこだ。

目の前には必死に落ち着きを取り戻そうとしているリュナがいるだけだった。本来ならこんな事をしている場合じゃない、すぐにでも前線に立ち戦わなければ。

でも今、それよりも大切なことがある。確かめなくてはいけないことがある。