「陛下。」

感情よりも先に声が出ていた。声を出したことによって必死に奮い立たせていた何かが崩れ改めて思いを声に乗せ名前を叫ぶ。

堪えていた涙も急激に溢れ出して視界を歪ませた。

「カルサ!!」

カルサの存在に気付いた瞬間に消えかかった翼を越えてロワーヌが飛び込んでくる。目一杯に手を伸ばしリュナの手を掴もうと近付いていることに気が付いたのはカルサだった。

「リュナ!!」

カルサの叫びと表情に危険を感じてリュナは反射的に振り返る。ロワーヌがもう、すぐそこまで来ていた。

彼女の指先が触れるのは、近い。無意識に本能で覚悟をし身構えた時だった。

鈍い金属音と共に鈍く怪しい光が一瞬よぎり、ロワーヌの動きが止まる。

息も動きも止めていたリュナの身体が瞬きから動きだしてその正体に気が付いた。怪しく鈍い光は刃物の輝き、そそしてその持ち主は。

「…千羅さん。」

息を切らし全身汚れきった千羅が、これ以上の進行を防ぐようにリュナとロワーヌとの間に剣を突きだしていた。

千羅は身体の至る所に擦り傷や汚れを作り血を流している。いつのまにか後ろに位置してリュナの肩を抱いているカルサも右肩から左脇腹にかけて大きな切り傷を作っていた。

鼻を突くような血液の臭いに気付かされたがそれ以外にも擦り傷や切り傷がいくつもある。

「カルサ、その傷…。」

心配そうに様子を伺うリュナに視線も送らずカルサはリュナの肩を強く引き寄せた。それは気にするなという気持ちの表れだとリュナは捉える。

今はそれどころではない、カルサはロワーヌから目を逸らさず睨み合いが続いていた。

しばらく沈黙が続いたが千羅は縦にしていた剣を横にし、大きく円を描くようにして剣先をゆっくりとロワーヌに向ける。