「ナルさんを…殺したのね。」

自然と目に涙が浮かぶ、その言葉を言えたのも不思議なくらいだった。

「名前など知らない。」

彼女の声がした瞬間、風がなくなった。

無風の空間に強く響いた肯定の声、リュナの手は固く握られ震えている。

「また、太古の因縁。」

今まで抑え込んでいた感情がふつふつと沸き上がっていくのが分かる、どうして、何故、こんならなければいけなかったのか。自分ではどうしようもない事が次々と起こり傷ついていく。

腑甲斐なさや、やるせなさ、己の無力さに腹が立って仕方ない。

「ここはオフカルスじゃない、何もかもが違うのに!」

振り回されてばかりの自分への怒りも含めてリュナはロワーヌを睨み付けた。

再び巻き起こる風はこれまでよりも威力を発揮しむき出しの闘志をロワーヌにぶつける。

「帰りなさい!これ以上、誰も傷つけさせない!」

気持ちを奮い立たせ力を漲らせるものならどんな感情でも良かった、戦う為に力になるなら悲しみでも選ばない。

リュナの風が彼女の闘志のように吹き荒れる。さっきまでとは桁外れに違う力、遠くにいてもリュナの居場所が分かる程だった。

もう他のことは考えられない、彼女の瞳はただ一つロワーヌだけを捕らえている。

「セリナ、という子を探しているの。」

ロワーヌの気持ちに構わずリュナは攻撃を仕掛けた。無数のかまいたちが彼女を襲う。

確かに襲ったはずだった。

しかし風は彼女を横切り消え去っていく。リュナの風は彼女の髪を激しく揺らしただけだった。

手応えがあった分リュナは驚きを隠せなかったが、すぐに平常心を取り戻す。