「自ら禁忌を犯した者。この世には知ってはいけない事が沢山ある。でも知らなければいけない事もある。」

そう言って最後に微笑んだ。

その表情があまりにも優しくて、自分の感情を忘れて見惚れ吸い込まれそうだ。

彼女は誰だ、残る気力で抵抗する言葉がリュナの意識を掴んでくる。

「貴方は誰？」

もう一度尋ねたリュナの言葉に女性は寂しくも優しい笑みを浮かべで答えた。

「私はロワーヌ。」

ロワーヌ、頭の中で繰り返した瞬間にリュナの全身に緊張が走った。

鮮明に思い出す記憶、その名前は確かリュナとカルサを封縛した人物の仲間だと目を見開く。

警戒音が鳴るのは当たり前だ、リュナは怯える気持ちを抑えて必死に立ち向かった。

一人でいてはいけないと分かっていてもどうしようもない、足を踏ん張って立っているだけでも今のリュナには精一杯なのだ。

「風を操る子、貴方が風神？名前を教えてくれる？」

問いかける表情は優しく、怒りも恐怖もリュナが出す全ての感情を受けとめてしまう、そんな感覚に陥った。

リュナは警戒しながらも時間を稼ぐべく答える。

今までこの場所で風魔法を使っていたのだ、カルサがリュナを探しているのだとしたら気が付いてここに来てくれることを祈っていた。

間に合うかは分からないが賭けるしかない。

「リュナ・ウィルサ。」

声が震えないように気を付けながら答えた名前に二人の視線がぶつかる。

求めた答えを返してもロワーヌは少しも表情を変えず口を開いた。

「違う。貴方の本当の名前が知りたいの。」

いま聞こえた言葉にリュナは疑問を抱かずにはいられなかった。