「頼むから、止めてくれ。」

擦れた声で呟き、まずは瑛琳の肩を掴んでゆっくりと態勢を起こしてあげた。

自然と目があった瑛琳に苦々しい表情を浮かべると耐えきれずに視線を落とす。

「俺はそんな偉い奴じゃない。」

切ない表情、カルサは瑛琳と同じ様に千羅の態勢も起こし、彼とも真っすぐに向き合った。

「もし…貴方に何か有れば、この国の行く末も危ぶまれます。」

必死の説得だった。

油断していた訳ではないが思わず感情が昂ってしまったことによってカルサは千羅から顔を逸らした。

目をきつく閉じて自分の中で選択をする。

千羅と向き合い、その想いを声にした。

上に立つ者としての覚悟を取り戻す。それは自分に対しての、自分の情けなさを再確認することにもなった。

「苦労をかける。」

情けなく微笑む、それは千羅と瑛琳の願いの肯定の合図だった。

満面とまではいかないが自然と二人に安堵の笑みが浮かぶ。

「いいえ。私たちが望んでしていることです。」

千羅が真っ先に答える、それをカルサは微笑んで受けとめた。

「それでは、私は持ち場に戻ります。」

瑛琳は一歩引いて軽く頭を下げた。

そして頭を上げ千羅に向けて微笑む、千羅はそれに笑顔で答え心の中で感謝の気持ちを唱えた。

瑛琳が振り返り歩き始めた時、カルサの声が瑛琳の足を止める。

「瑛琳、日向を頼む。」