「千羅、大物がやってきたぞ。」

「ですね。皇子の結界を壊し魔物を招き入れた人物、誰でしょうか。」

カルサは答える事無く考え黙りこんでしまった。思い当たる人物は約二名いるが、それが正解とは限らない。誰が来るにしろ具合は悪くなる一方だと眉をよせた。

「千羅、兵士たちの手助けに行ってくれないか?」

魔物を相手にした事などほとんどない状態の兵士たちには多少困難な相手だ。

多少どころではない最悪の場合には混乱を招き絶望から戦う意欲を失ってしまうかもしれないと想像も出来た。

いずれカルサがそう言い出すであろうと何となく予想は付けていた千羅だったが、彼の思いは違う。

「それはお受けできません。」

千羅の言葉にカルサは視線を向ける事で反応した。

千羅の目は真っすぐカルサを射るように見つめている、それは時折見せる茶化すようなかわし方ではないのだと知らせていた。

「先程誓ったばかりです。私は貴方の傍から決して離れません。」

「しかし、千羅…。」

「皇子!」

異論を唱えようとするカルサの言葉を遮り千羅は強く叫んだ。それは声ではなく気持ち、意志の強さの叫びだと千羅は態度で訴える。

「また私に、あんな想いをさせるおつもりですか!?」

千羅の声は囁く程度の叫びなのに強く大きくカルサの心に響き震わせた。

彼の目が訴えている、強い意志をカルサに訴えている。

その目にカルサは言葉を失い何も変える言葉が見つけられなかった。

「失礼します、皇子。」

沈黙を破ったのは突然現れた瑛琳の声、それと同時に呼吸が止まっていたことにも気付き我に返るような思いでカルサは掠れた声を絞り出した。