誰もいない廊下を彷徨うようにリュナは歩いていた。

目は虚ろか、意識がはっきりしているようには見えない。

少し離れて気遣いながらレプリカが控えていることも今のリュナは気が付いていないだろう。

裸足で薄着のままのリュナの為に上着と靴を、そして言い様のない不安を抱えて一定の距離を保っていた。

リュナの雰囲気は何か違っていた。

長い髪を揺らしふらふらと歩きつづけ、口元は何かを囁いているのか小さく動いていた。

その言葉をレプリカは知っている。操られるように目が覚めてから、まるで標を求めるように繰り返し呟く言葉。

「行かなきゃ…。」

リュナから小さな金属音がする。

彼女の耳元で揺れる金の石と鎖が触れ合う音だ、それは昨日までは無かったものだった。

少し長めの鎖は目を伏せた時に石が視界に入る程度はあるだろう、石の色には見覚えがある。

そう思うとレプリカは胸に抱えていた物を強く引き寄せすがるように声を出した。

「陛下。」

助けてくれとは言えなかったが胸の内で必死に願うことだ、届く訳がないと分かっていても信じて見たくなる。

それと同時にここに彼を呼んでいいものかとも考えていた。

「傍に行かなきゃ…助けなきゃ。」

囁く声はまるで呪文のように繰り返される、その姿は救いを求める子供みたいだった。

長い髪ややわらかな生地の服が風に舞う、彼女が起こしている風に舞う。

窓のない開けた廊下を歩く様子はまるで薄暗い空に吸い込まれていくようで恐ろしくなった。