彼の目には前にいる貴未を映しているのかいないのか、小さく震える唇は何かを呟いている。

まさか、そんな。

口にすればするほど思いが膨れ上がる。有り得ない、カルサの全身をその言葉が埋め尽くしてようやくそれは爆発した。

「そんな馬鹿な!じゃあリュナが風神なんてありえない!俺たちはあそこで生まれたからこそこの力を持っている。そのほとんどが神官の力…環明と同じ時代に生きたなら風神の資格などないはずだ!」

怒鳴るように吐き出した言葉はくぐもった重たい空気に響いて落ちていく。

想像以上のカルサの反応に貴未は驚きを隠せなかった。

彼は何をそんなに慌てているのだろう、何を怯えているのだろう。気持ちが分からなくもないが、ここまで過剰反応する理由が分からない。

怒り狂うと言えば一番近いかもしれない状態は初めて見る姿だった。

「確かに、風神となり風の精霊に選ばれるくらいなら太古の時代に神官になるか私たちが気付く筈。でもあの子は魔物でしょう?知らない存在だったとしても変ではないわ。」

「しかしリュナは光の中で生きていた。とすればレテイシアに存在していなかったということだろう。」

「太古の国で唯一の闇の世界ですからね。確かにそこ以外に居場所はないでしょうが…現に彼女の魔性の血が目覚めたのがあの出来事の後だ。光の世界にいた方が考え方としては自然です。」

声を荒げるカルサを助けるように千羅が言葉を添えた。

「おそらくリュナは混血だ。二つの世界に対応できるなんてそうある話じゃない。」

カルサの言葉にマチェリラが目を細める。

そしてカルサも同じような表情で少し目を伏せて声を落ち着かせた。

「可能性は…。」

そこで閉じた言葉を受け取るようにマチェリラが続ける。

「可能性としてあの子が直接環明から力を受け継いだ、という事が上げられるわね。」

「だとしたら太古の因縁も知っている、もしくは関わりがある事になる。」

千羅が付け足すように低い声で発言をした。