思えばエプレットの笑い声を聞くのもこれが初めてかもしれない、そう考えると聖はこの為に来たのだとも思った。

訓練は鬼の様だが面倒見がいいのは事実だ、特殊部隊の隊員たちは皆聖を慕っていた。

微笑ましい二人を置いてサルスは自席に戻り書類を捌き始める。

楽しそうな声を聞いているだけで気持ちが軽くなり作業も進むようだった。

「自分忙しそうやな。カルサよりも負荷高いんとちゃうか?」

不意に向けられたのは自分への言葉だとサルスも気が付く、口元で笑いながらそんなことはないと作業を続けた。

実際にカルサと比べたら負荷は比べ物にならないのだ。

人それぞれ役割があって仕事内容も違う。

そもそも比べることが間違いだと思うが、あれは聖なりの労いなのだとサルスは分かっていた。

「今度何か美味いものでも用意させるよ。国王の権限を発揮してもらう。」

「そりゃええな。」

顔や目を合わせなくても交わされる言葉は温かみを帯びている。

手元の作業を終えると分けた書類の山の一つを手にして聖に向き合った。

「聖はまだ時間がありそうだ。これをハワード大臣の所へ頼む。」

有無を言わさず手に渡された書類の束に聖は正直な感情を露わにして唸り声を上げる。

「…顔見られたら怒られるやないか。」

普段から顔を合わせないように努力をしていることをサルスが知らない筈がない。

国王陛下であるカルサとの親しげな関係によく思っていない代表格のハワードは顔を合わせればお説教が始まるという流れが待っているのだ。