「それは…覚悟のつもりだ。でも結界石の力があればもう少し保つだろう?」

サルスの言葉に聖は直ぐには反応しなかった。

一呼吸置いた後で、そうやな、と答える。

いつも以上の含んだ言い方にサルスの不安は拭い去ることが出来なかった。

それどころかますます膨らんでしまったような気がする。

気休めでさえも用意はされていないのかと思うとこの先には何の希望も見いだせないような気がして胃が痛くなった。

いつの間にか歩き出していた足は目的地であるカルサの執務室に辿り着いて短く扉を鳴らす。

合図は不要だと分かっていても何故か叩いてしまうのは昔からの癖だ。

「殿下。」

執務室ではエプレットが文献を探すように本棚の前に立っていた。

「ああ、精が出るね。」

サルスの言葉を貰ったエプレットは嬉しそうに表情を崩すとサルスの後ろにいる人物に気が付く。

「よ。頑張っとるか?」

「聖隊長!!」

懐かしい元上司に出会いエプレットは配属されてから初めての弾けるような笑顔を見せた。

余程嬉しいのだろう、書籍を棚に戻すと入り口にいる聖の方に駆け寄っていく。

「お久しぶりです!」

「元気そうやな。サルスに苛められてへんか?」

「するか。鬼隊長に言われたくない。」

見事な掛け合いの二人にエプレットは声を出して笑った。