「殿下。」

声の主である聖は近付いて来るサルスを見つめながら控え、彼が辿り着くのを待つ。

「どうした。」

「お話があります。少しお時間をいただけませんか?」

珍しい場所への登場と聖からは言われ慣れていない口調に眉を上げて疑問符を浮かべた。

一体何の冗談だろうか、しかし至って真面目な表情で答えを待つ聖の様子からして決して茶化してはいけない雰囲気だということも悟る。

たとえこれがフリだとしても素知らぬ顔で対応してほしいということなのだろうと察してサルスは口を開いた。

「分かった。しかし時間があまり無い、執務室に向かいながらでもいいか?」

「はい、ありがとうございます。」

聖の言葉に頷くとサルスを先頭に二人はカルサの私室へと向かった。

サルスがどういう印象を持っているかは知らないが聖にとってこの振る舞いは自然なものだ。

こういう多くの目がある場に現れる時は当たり前のように聖も臣下然とした態度をとっている、そもそも普段の親しい振る舞いは特殊部隊や限りなく近い身内の前でしか出していないものだ。

サルスの後ろを歩いているとやはりサルスは特別な地位に身を置いている人物なのだということがよく分かった。

通り過ぎる人間は皆、敬意を払って頭を下げる。

いつもなら自分の頭を下げる側にいるので気が付かないが、次々と下がっていく頭を見るのはこんな気持ちになるのだと少し緊張してしまった。

ここに集まる人物たちはそれなりの地位に身を置く軍人の聖とは別世界の住人たちだ。

着ている物を見れば分かる、そんな人物たちの前では無駄に情報を与えることも無いだろうと大部屋を出て廊下に行くまではサルスも口を開かなかった。