「太古の国でならそういったことに覚えがあるが…リュナは古の民ではない。だから俺には詳しくは分からないがな。」

「太古の国で何かあったんですか?」

「人間と魔物で恋人関係になった人はいた。当時はかなり驚かれたことだったが…今ではどうなんだろうな。」

そう言うとカルサは床に置いていた火種のろうそくを持ち上げて灯りをつけ始めた。

一つ一つと箇所が増えていくたび訓練場が明るさを取り戻していく。

「どんな形であれ、リュナは愛されて育ち今ここにいる。」

思いがけない言葉にリュナは反応が遅れたが、それは不安に思う自分を支える為の言葉だと気付いた。

「貴方もですよ、陛下。」

リュナの添えるような声に動きを止める。

自分が贈った言葉をそのまま返されカルサは苦笑いをするしかなかった。

愛されているということを感じる間もなく過ごしてきたこれまでの記憶はきっと自分が求めていなかったのだと思わざるを得ない。

誰かに愛されるかどうかよりも認めさせるかどうかしか必要なかった。

両親を亡くし一人でこの国を背負っていくには敵が多すぎたのだ。

「人が周りにいるということはそういうことです。皆貴方が好きで力を貸しているのですから。勿論…私も。」

いつの間にか近くにいたリュナがカルサの背中に額を付ける。

お互いに頭の中ではこれからのことで可能な限りの思案がされていた。

どうするべきか、それはいつか、間違いなく猶予なんて言葉が存在しない程に迫ってきている。

リュナは両手を回して後ろから抱きつくような形でカルサに身体を摺り寄せた。